第12話 ゆき先輩

 家に帰ると、柚希も息子たちもいなかった。


あ、そういえば、峻の体操教室の懇親会みたいなやつに行くって言ってたな。

食べ放題の店に行くんだって。


あっ!やべ!!

だから、食べて帰ってきてね!って言われてたんじゃん!!

すっかり忘れて帰って来ちまった。

今から食べに出るのもめんどくさいしな~。

そうめんでいいか。

そう思って、鍋に水を入れて火にかけた。


ふと見ると、テーブルの上のスマホがバイブで振動している。


柚希からかな?


そう思って手に取ると、登録のない電話番号だった。

だけど、これって、ついさっき俺が掛けた国元の番号か?


「はい、倉田です」


「あ、国元です。とおる君、ごめんね!

土曜日さ~、とおる君 長野まで来てくれるって言ったけど、私が会いたいって言ってんのに、

来てもらうの悪いじゃん!って思って」


「えっ、いいよ 別に。

ってかさ、今 妻 出かけてるからセーフだったけど、電話ちょっとマズイからさ。

俺、結婚してんのは知ってんだっけ?」


「うん、知ってるよ~。ゆき先輩ね~」


「は?……」


国元の口から柚希の名前が出ると思わなかったから、びっくりした。


「えっ!じゃ~さ~、ゆき先輩に内緒で、私に会いに来てくれるってこと?」


「内緒ってゆうか、変に誤解されてもめんどくさいからな!

とにかく、俺の方から行くから、だから、電話してくんなよ」


ちょうどそこまで言ったところで、玄関ドアが開く音がして、ただいまー!!とバタバタ走る音が聞こえた。


俺は、電話を切り、電源もオフにした。



「ただいま。あれっ?なにか作ろうとしてる?」


あっ!!忘れてた!!


鍋のお湯はグツグツに沸騰して、もう量も少なくなっていた。


「あ、そうめん茹でようかと思ってお湯沸かしてたのに、忘れてたよ」


「え~~!!こわっ!!ってゆうか、食べてこなかったの?」


「うん、それも、すっかり忘れて帰って来ちゃった」


「じゃ、なにか作るから、とおるは座ってて。

お仕事お疲れさま~」


なんてゆうのか……バツが悪いな……


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