第8話 キラキラフィルター
家に着いて、峻はすぐに寝てしまった。
「とおる、すぐお風呂はいる?」
と、柚希が聞いた。
「ゆきと入りたい」
「あははっ!はいはい、じゃ先に入ってて。
すぐ行くから」
俺は、なんだか、イライラしていた。
いちいち妬きもちをやくのはやめようって思ってたのに……
今日は、柚希の口から “”えいちゃん“”
ってのを何回も聞いたからか、すごくイラついた。
ってか、俺が妬きもちをやく相手は、田坂朋徳だけだってわかったはずなのに、未だに矢沢弘人には勝てないと思ってしまう。
だって、矢沢は柚希のはじめての彼氏なんだから。
はじめての彼氏……
か……
国元にとっては、俺が はじめての彼氏。
俺にとって国元は、はじめての彼女。
ファーストキスの相手で、はじめてセックスした相手……
俺が湯ぶねにつかっていると、風呂に柚希が入ってきた。
かけ湯をして、柚希が湯ぶねにつかった。
俺の股の間で体育座りで背中を向けている。
「なんで怒ってるの?」
向こうを向いたままで、柚希が静かに言った。
「俺? 怒ってないよ」
「じゃ、私が一緒の飲み会は楽しくなかった?」
「いや、そんなことないよ!
ってゆうか、席が遠すぎて、そっちの先輩たちと全く話せなかったから……
ゆきがなんの話をして笑ってたのか、気になってた だけ……」
なんか、話してるうちに、恥ずかしくなってきた。
「なんの話をしてたか?
あ、佐久間っちがさ、ずーーっと、えいちゃんの悪口言ってたの。 ずーーっと!!
あいつは、顔がいいだけで、だいぶクズだって。あははっ!!
初めて聞くエピソードいっぱいだったよ~!!
別れて良かった!良かった!ってさ~。
あんまりヒドい悪口だったから、ちょっと反論しちゃったけど。
そしたら、松井田まで佐久間っちと一緒に悪口言い始めちゃったからさ~。
松井田が言うなら、そうか!そうだったんだ!って納得したりして。あははっ」
矢沢の悪口
まぁ、柚希の前と、剣道部の男子の前とでは、態度がだいぶ違ったってやつだな。
裏表が激しいって。
矢沢本人も、自分は性格悪いから、柚希にバレないように必死だったって言ってたもんな。
じゃ、佐久間先輩も松井田先輩も、悪口ってゆうか事実を言ってただけだろう。
佐久間先輩は、盛って話してるかもしれないけど。
柚希は、反論したのか。
まぁ、柚希の前では、かっこいい王子さまやってたんだろうから、柚希からしたら初耳の話か。
「とおるも、えいちゃんのこと嫌いだった?」
「えっ?俺は……、全く話したこともなかったから、どんな人かも知らなかったけど……
だけど、大っっキライだったな!!」
「あははははっ!!だいっっきらい!!って、
ためて言ったね~!!あははっ!!
私が見てた えいちゃんは、みんなが見てた えいちゃんとは別人みたい。
キラキラフィルターかけて見てたのかな?
飲み会で私が話してた話は、そんな感じの話だよ。
あとは、倉田のどこがいいんだよ?って聞かれたから、全部大好き!って言っといたよ」
そう言って振り返り、俺に抱きついた。
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