第4話 川崎の道場 2

 道場の端の方で、松井田先輩と柚希がアップをはじめた。

切り返しと、面打ち。

俺は、峻と、佐知香と子どもたちと正座して見ていた。


25年前、はじめて梅原高校の剣道場で見た時の光景がよみがえってきた。


流れるようなキレイな打ち。

女の人は、中野先輩。

力強いパワー系の打ち。

男の人は、松井田先輩。


あの時、面を外した中野先輩に、俺は一目惚れしたんだ。



アップを終えて、松井田先輩と柚希が話している。

試合稽古をしようってことだな。

タイム計るかな~? 

審判いるならやるけど、と思って見ていたけど、時間も決めないでなんとなくやるみたい。


2人は、蹲踞そんきょして、試合稽古をはじめた。

身長差もあるし、松井田先輩は昔よりデカくなってるから、相対したら圧がすごい。

柚希、大丈夫かな?

まともにくらったら、ふっ飛ばされちゃうけどな。

そんな風に心配して見ていたけど、昔みたいに正面から受けることはしなかった。


うっわ~!!

今の返し胴!!めちゃめちゃキレイに決まったな!!

かっこよ!!

体さばきが絶妙だな!

あのパワーをうまく受け流してる。


「柚希先輩の剣道、変わったね~?」

隣りの佐知香が俺に言った。


「あぁ、アラ40だからって言ってたな。

ま、俺らもみんなアラ40だけどな」


「そりゃアラ40は、アラ40だけどさ!!

なんてゆうの~~柚希先輩の剣道って、ほんと、キレイな剣道だよね~!

キレイな剣道ってのは変わんないけど、なんてゆうか~サラッとしてるね!」


サラッとしてる?

語彙力 ゴミかよ?

まぁ、佐知香が言いたいことは、まぁまぁわかった。

これは、試合じゃない。

だから、勝負ではない。

殺気立つようなものは感じられないし、松井田先輩が打ってくるのをいなして返している感じ。

でも、いい打ちをしている。

いい小手が入った。

あっ!その引き面も一本入る面だな!!


「倉田~!あんた、柚希先輩とよく結婚できたね~?」


「は?なんだよ?」


「好き好きって想ってたって、なかなか相手には伝わんないしさ、柚希先輩に倉田の想いが届いて良かったな~って、さ」

あははっと、佐知香は笑った。


「佐知香も、だろ?」


「あぁ、うちんとこはさ、なんのライバルもいない完全フリーだったからさ、結婚してよ!って言ったら、すんなりだったけどね」


「ふ~~ん。そうか」


「あははっ!!興味ね~って感じだな~!!

とにかくさ、高校の頃から大好きだった人と結婚できるなんてさ、何パーセントいるのかな?

すごいことだよ!!」


「お互いにな!!」


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