第2話 剣道をはじめる

 この3年間、俺はだいぶモヤモヤした気分で過ごしていた。

表面上は、変わりない。

俺も、柚希も。

柚希は、相変わらずに良き妻、良き母、良き嫁だった。


 

 1番大きな出来事と言えば、柚希がまた剣道をはじめたこと。

柚希が、ってゆうか、次男の奏がやりたいって言い出したから、どこか近くに剣道教室ないかなって調べた。

松井田先輩の知り合いの人がやっている道場が、川崎にあって、子どもも大人も通える道場だった。

松井田先輩に紹介してもらって、見学に行って通い始めることにした。

最初は、俺も柚希も、奏だけのつもりでいた。

4回くらい通ったあとに、柚希が私もやろうかな~と言った。



「とおる、私も奏と一緒に剣道やろうかな~って思うんだけど」


「えっ?やるの?」


「うん、奏を連れて行って、ただ見てるだけって、なんか手持ち無沙汰だし、なんか見てたらやりたくなってきちゃった。

アラ40にはキツいかな~?」

 

「いや、いいと思うよ!! 

若い時とは違った剣道をすればいいと思うよ。

俺もだいぶ昔とは変わったけど、その歳なりの剣道があると思うから」


「うん、そうだね。

昔もさ、先生たちって、あんまり動かないなぁって感じだったけど、こっちの一瞬の隙をついて打ってくるって感じだったね。

あ、何気にあの頃の古川先生とか浜松先生とかの年齢になったのかな~私」


「あ、そうだよね~。

俺ら高校生の時に、2人とも39だか40だかって言ってたかな?

めちゃめちゃ怖かったし、強かったよな~」



懐かしい。

23年前の話を共有できるって、やっぱいいな~。

あの頃、高校生の俺は、中野柚希先輩に憧れているだけのただの後輩でしかなかった。



数日後

防具のカタログを取り寄せたんだけど、と俺に見せてくれた。


「これがいいな~って思って」


と、赤ペンで丸をつけてあるページを開いた。

値段を見て、びっくりした。


178,000円


じゅーななまん!!!!


「やっぱり高すぎるね。

じゃ、第2希望はこれ!」


別のページを開いた。


58,800円


えっ?

5万……

差があり過ぎだろ!


剣道の防具は、ピンキリ。

本当に高い物は50万するものもあるし、奏の防具は3万円のやつを買った。

俺が今使ってるやつは、7、8年前に買ったやつで、12万くらいのやつを買ったんだった。

まぁ、10年は使うからって。


「せっかくだから、第1希望の方にしようよ!

ゆきが気に入ったやつの方がいいじゃん!!」


「とおる、ありがとう!!

いいの?ちょっと高すぎるけど。

長く使うね」


長く使うね、か。

こんな値段のやつを選ぶんだから、柚希、剣道 これから長くやるつもりでいるんだ?





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