§ 2 【限界少女の末路】
第11話
翌日、学校に行くと陽彩は鬼屋敷のグループにいた。私の顔を見ても、目を逸らす。挨拶すらしてくれない。昨日のことが現実だったと実感させられる。
昨日、家に帰った私は挨拶もせずに部屋に駆け込んだ。母が何か言っていたが、それに答えられるだけの気力がなかった。どうやって帰ってきたかも覚えていない。
けれど、電車の中で周りの人がジロジロ見ていたことだけは分かる。終始嗚咽交じりに泣いていたからだろう。
止めようと思っても止まらない。
どうして……どうしてどうしてどうしてどうしてどうして……?
どうして陽彩は……あんなことを言ったの……? また……私はひとりぼっちになるの……? 私が一体……何をしたっていうの? 分からない。何ひとつとして……
「明日……聞いてみよう」
あまり気は進まない。その行動で更に嫌われるかもしれない。それでも、聞いてみないと分からない。私が覚悟を決めたその時――
「ちょっと澪! 手洗いうがいをしなさい!」
――うるさいなぁ。
気分が沈んでいる時、イライラしている時に母の声を聞きたくない。八つ当たりしてしまう。
「もう。お風呂が沸いたら呼ぶからね」
「…………」
足音が遠ざかっていく。
完全に聞こえなくなったのを確認して、私は溜息を吐いた。
――お風呂にご飯か……面倒くさいな。
どうしようか悩んだ。
けれど、考えれば考えるほど頭が痛くなって、動くことすら嫌だった。
――もう、今日は全部いいや。シワになっても知らない。私はそのまま気絶するように眠った。
目が覚めると頭が痛かった。鏡を見なくても、目が腫れていることが分かる。朝、母が私の顔を見てギョッとした表情を見せた。
「ちょっと、あんたそれ一体――」
「大丈夫だから」
母の言葉を遮るようにして、私は首を横に震る。心配した表情を見せる母を見ていたくなかった。朝ごはんを飲み込むようにして食べたあと、私は直ぐに家を出た。
学校に着くと、視線を感じ辛かった。顔を上げたくなかった。
それでも、ずっと下を向いていたら、話したいことも話せない。私は勇気を出して顔を上げ、教室へ入った。
「……っ!」
けれど、そんな努力も虚しく、私は直ぐに下を向くことになった。クラスメイトが私の顔を見てクスクス笑ったから。
『ねえ、あいつの顔やばくない?』
『辛いことがありましたーっていう、アピールじゃない?』
『可哀想にね。どれだけ泣いたって、お前を助けてくれる人なんていないのに』
声を出して笑うそいつらのことを、私は睨みつけることすら出来なかった。言い返すことが出来なかった。
どうして……どうして私はいつもこうなんだろう……中学一年生の時から、何も変わっていない。私は……弱虫のままだ。
陽彩と話したいと思った。何かしてしまったのなら、教えてほしいと。けれど、彼女の様子を見るに、それはもう叶いそうもない。ここで声を掛けたら、空気の読めない奴だと更に思われる。復讐をする前に壊れてしまう。そうなってしまったら私は――
『ねぇ、あいついつまであそこに突っ立ってるんだろうね』
『いい加減邪魔だよね』
笑い声とともに発せられた言葉が、自分に向けられたものだと悟る。気付けば私はその場から逃げ出していた。
『あ、逃げたー!』
クラスメイトが笑う声が聞こえた。
もう嫌だ……
海凪さん……助けて……
私は屋上まで行くと、直ぐに電話をかける。相手は直ぐに出た。
『もしもし、澪ちゃん? こんな時間にどうしたんだい? 学校は――』
「海凪さん、私……もう無理かも」
私は全てをその場で吐き出した。海凪さんと話をしたあの時は、まさかこんなことになるなんて思わなかった。どうすればいいのか分からず私の頭の中は困惑していた。
『そうかい。辛かったよね。よく頑張ったね』
全ての話を聞き終えた海凪さんは、電話越しでそう言った。顔を見なくても声色で分かる。怒りと悲しみをグッと堪えているということが。
「ねぇ、海凪さん。私……どうすればいいかな……? もう……頑張れないよ……」
『そっか。ここまで良く頑張ったね。そうしたら、今から僕の言うことに従ってくれるかい?』
「……? うん」
『ありがとう。あのね――』
その日、栗花落澪は自宅に帰らなかった。教室を飛び出した後、誰もその姿を見ていない。澪の両親は警察に通報し、捜索願いを出した。
しかし、ただの家出だと判断されたのだろう。まともな捜査をしてもらえなかった。
その一週間後、栗花落澪の遺体が学校の敷地内で発見された。
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