始まりの交差点

刻堂元記

第1話

 始まりはいつも、予告なく唐突に訪れる。そして、時に出会いを伴う。しかし最後は、別れも言わずに決別する。人生とは決まってそういうものだ。だが、人生を変える転換点では、それを避けることが出来ない。例えるなら人生は、スクランブル交差点と言っても良いのかもしれない。


 大勢が渡る交差点。その上を進む通行人たち。皆、周りを気にしていない。いわば、自分だけの世界に閉じこもっている、それだけの存在。だから何も見ていない。タイミングが来たら歩く。それで構わないのだから。


 ただ、そのタイミングを見誤って飛び出す者も当然いる。仕方ない。分かっていたはずなのに交差点を渡ろうとするからだ。急ぐな、止まれ。言っても無駄だ。警告を無視して、簡単に法というボーダーを超える。


 全ては、成功という幻想を夢見た衝動的な欲求でしかない。それを掴み損ね、大きな代償を払うのは、割に合わない失策として受け止められるだろう。


 もちろん、そんなのは稀。まず起こらないのが日常であり、現実である。何も発生しない理想の日々とはまるで違う。しかし、きっかけさえあれば、運命はどんな方向に転がり得る。青信号の点灯。人々の交錯。必然と偶然が繰り返されることで、人生は予想外の転機にぶつかり、未来の分岐点を増やしていく。1つの幹が枝分かれするように、通常の交差点もスクランブルへと変化する。


 しかしそれでも白線が途切れることはない。歩道を結ぶ白黒のメドレー。それがレールのように続き、各々の進むべき方向を指し示しているからか。否。白線は何も特定の場所に誘導しようとはしない。幾多にも及ぶ可能性を、各人の前に次々と掲示しながら選択を迫る。その役割を徹底的に守っているだけなのだ。


 だから、他の事は何も知らない。知りえない。いつか消える命の輝きも、風化していく自分たちの結末も。全ては他人事。専門外。


 とはいえ、人々は白線を理解している。白線はルールであり、交差点はこれからの未来を決める始まりの場所に過ぎないと。従って、各々が自身の未来を決定する巨大なスクランブル交差点を、いつしか『始まりの交差点』と呼ぶようになったのは、もはや自明の事だろう。

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