堕天使と巨大ザメと天使のような古生物学者

 夜になって、悪魔たちは信敏に頼んだ。

「何か怖い話をしてくれ!ここ、じめじめするんだ」

「盆地だから湿気が溜まるんだ。怖い話か、そうだ!」

「話してくれるのか?」

「まあ、考えながらな。お館様は、いつか長尾景虎と対立することになるでしょう。その時の話はこうなるだろうな。長尾景虎は美男子と酒が大好きだと。そんでもって、地獄で一番美しい堕天使が、景虎に酒を大量に御馳走する。酒を大量に飲むと死んだり意識がもうろうとしたりすることもあるらしいから、酒に夢中になったところを堕天使が剣で殺す、というわけだ」

「え?」

「話はまだまだ続く。景虎は毘沙門天という仏教の神を信仰している。酒を飲んでいて、美男子な堕天使にうっとりしていたので、景虎はこう言ってしまう。好きだ、と。景虎はメガロドンという巨大ザメなので、堕天使を背中に乗せてしまう。その瞬間、堕天使は剣を取り出して、景虎を刺し殺そうとする。だが、これに越海景友という人間が気づき、景虎にその旨を伝える。堕天使は奮戦するが、悲しいかな、メガロドンの最強の咬合力で咬み潰されてしまう。堕天使は血だらけになり、海の底へ沈んでいく」

「その堕天使って...」

「それ以来、美しい堕天使が海に現れるようになり、メガロドンを襲うようになったとさ。話はここまでだ」

「ちょっと待った。全然怖くないし、それに堕天使ってここにいるじゃん。あと、メガロドンってどんな生き物なんだ?」

「ああ! ルシファー、堕天使ってのはあんたのことだ。でも実際にこんなことが起きるわけはない」

「なぜそのようなことが言える?策略の一環でそうなるかもしれないのだが」

「決まっているだろう。長尾景虎にあんたを渡さないためだよ」

「お?これってもしかして...」

 武田晴信が割って入った。

「戦国武将は、衆道と言って、男同士の恋に落ちることがある」

「男同士!?」

「俺たちの時代では女同士もあり得るけどね、そういう『時代』だから。戦国時代で女同士はあんまり聞いたことないかも」

「お呼びですか?」

 巨大な鳥がやってきた。

「わたくしは高坂昌信です。お館様からは愛されているのです」

「やっぱりさ、高坂殿は人間だった頃も美しかったんだって。美しいやつは何になっても美しいんだな」

「なるほど」

 信敏が、ルシファーの額に自分の額を合わせた。

「あんたも同じだからね?最も美しい大天使は、大悪魔になってもなお美しいのだ」

 キスまでとはいかないが、2人の顔の距離はだいぶ近かった。

「おー何やってんのかな?」

「何言ってる、愛の見つめ合いに決まってるだろうが」

「あなたは天使のようだ」

「あんたの悪魔と比べて?俺たち真逆なんだな。残念ながら見つめ合いはここまでだな。メガロドンとアルゲンタヴィスについて、話すから」

 信敏は、どこからか巨大なスクリーンを持ってきた。そこに映像が映った。

「メガロドンは新第三紀の巨大ザメで、リヴァイアサン・メルビレイという宿敵がいた。獲物のヒゲクジラを取り合っていたらしい。リヴァイアサン・メルビレイが先に絶滅したが、メガロドンもその後絶滅する。俺が考えるには、リヴァイアサン・メルビレイはメガロドンに嫉妬している」

「その根拠はあるのですか?」

「メガロドンの方が咬合力が強い。リヴァイアサン・メルビレイはメガロドンより強かったとも言われているが、リヴァイアサン・メルビレイではなくメガロドンが歴史の表舞台に出てくる。だからメガロドンの方が有名で人気がある。そして決定打があるんだ」

「決定打?」

「リヴァイアサン・メルビレイは生きているという説が無いのに、メガロドンにはそれがあるということだ。つまりメガロドンは生きているかもしれない。ちなみに、俺が今流しているのは俺が好きなサメ映画。メガロドンが活躍してるんだ」

「確かに、こうなるとリヴァイアサン・メルビレイはメガロドンを妬んでるのかもしれない。メガロドン以上の捕食者だったのかもしれないのにな」

「そういうこと!アルゲンタヴィスは、新第三紀のインカ帝国にいた生物だ。空を飛ぶ鳥の中では史上最大といわれている。インカ帝国、つい数年前滅んだけどね」

 長尾景虎は、越海景友にこう訴えた。

「誰かが、我の噂をしているようだが」

「甲斐国の大悪魔でしょう。大悪魔たちに、古生物について教えているのでしょう」

「なんと大胆な...」

 信敏は、話を続けていた。

「だからさ、あんたたちの悪魔の力とやらで、古生物の研究を手伝ってくんない?」

「そうなるか。良いだろう、私もあなたの話を聞いて古の生物に興味を持ったから。武田軍の戦にも協力しよう」

 武田晴信、

「おお!悪魔の力とはすごいものなのだろうな。期待しておる!陸上ではのろまなわしを助けてくれ。もし水中戦となったら任せるが良い」

「一つだけ契約がある。武将としては晴信殿の方が格上だが、悪魔としては私の方が格上だということを契約する」

「まあそうだろうな。七つの大罪において、ルシファーが司っている『傲慢』は一番重い罪だと聞いたし」

「では、これからもよろしくな!」

 


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