第二話『同腹』

 家の庭。


 物干し竿のハンガーには、布面積の狭いユニフォーム一式が二種類、かかっている。


「ねぇお母さん、私のスパイクのピンの換え、どこにいったか知らない?」

 あかりは、母の頭のつむじに、話しかける。

「わっ! なんだ明かぁ。びっくりしたわ」

 母は驚き振り返って、明の顔を見上げる。

「あ、ごめん、驚かせるつもりなかった」

「ま、そんなこともあるわ。そうだ明、なんだか陽太にちょっと似てきた? 明も陽太もすらっと背が高くて、気配が似てるのよ。歩き方も、そっくり」

「そんなことないし……」

明はプイッと、そっぽを向く。

「なになに? 兄妹喧嘩? あ、あれだなぁ? 思春期ってやつ?」

 母は、多感な時期の明をからかう。

「べつに? 部活では全然、しゃべってるし……」

 反論するが、声は尻すぼみしている。

「そりゃあ一緒に走るんだから、当たり前でしょう? お母さんは、うちでのことを言ってるのよ」

「……」

明は、反駁はんばくできずに黙りこんだ。


〈第三話『良知の不在』に続く〉

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