第2話、新しい家

連れていかれた僕は、冷たい水とタワシで洗われ、お湯で薄めた不味いスープと硬いパンを貰って食べた。

「首を見せろ」

従業員の言う通りに首を見せると数人の人に暴れないよう取り押さえられた。

「!?」

一瞬、なんでそんなことをするのかと思ったが、次の瞬間、首の周りが焼けるように痛くなった。

あまりの痛みに声が出そうになると、口に布を詰められ喋れなくなった。

しばらくすると、拘束がとかれた。目の前にはフードを被った彼がいつの間にか立っていた。

「こちらの書類にサインと、あの奴隷の首に、血を一滴垂らしてください」

奴隷商人がそう言って彼に書類を渡し、スラスラと名前を書かせた。

「ちょっと痛いかも、ごめんね」

少し辛そうな顔で彼は僕の首に血を垂らした。

「ウグッ!?」

あまりの痛みに驚く僕に彼は心配そうに手を差し伸べた。

「これで全て終了です。またのご利用をお待ちしてます」

奴隷商人はニコニコ笑顔で僕たちを見送った。

「…あの…」

(なんて呼ぼう?確か、こういう時って、僕は買われたってことだよな?なら、ご主人様?主?なんて呼べば…)

1人で難しい顔をしてると、彼はにっこり笑って僕の肩を叩いた。

「そんなに緊張しないで?僕の名前はシルク・クライム」

「あっ…小波、天邪鬼です…」

(そうだ、名前の順番間違えた…下の名前を先に言わないと小波が名前になっちゃうんだ)

「へぇ、天邪鬼くんだね。天邪鬼が下の名前であってるよね?」

「は、はい」

僕が驚いていると、シルクはクスクスと笑い始めた。

「驚いたようだね。まぁ、まずは家に帰ろうか」

シルクは僕が着いてきているか何度も確認しながら小さなお店の中に入っていった。

「いらっしゃ…お帰りなさいませ!」

着物を着こなした綺麗な女の子がシルクに頭を下げた。

「鈴、ただいま。…また、お店の手伝いをしてたのか?」

「うん!だって早く、みんなの役に立ちたいんだもん!」

さっきまでの手馴れたしぐさとは異なり、言動が幼くなっていた。

「まずは学園で勉強を頑張るところからだな」

そう言って、シルクは鈴の頭を撫でた。

「もう!子供扱いはやめてくださ…あら?シルクさんその人は?」

僕がいたことにやっと気づいたのか、少し恥ずかしそうに頬を赤くした。

「あぁ、えっと天邪鬼くんだよ。今日から一緒に暮らすことになるから仲良くね」

シルクは僕の肩に手をやって鈴に紹介してくれた。

「小波 天邪鬼です。…天邪鬼が名前のほうで…」

「名前のことは大丈夫!私もだから」

鈴はそう言ってニコッと笑った。

「私の名前は時崎 鈴(ときさき すず)っていうの。えっと、転移者で、日本人だよ。天邪鬼さんも日本人?かな?」

「ッ!はい!…僕も日本人で、なんか、こっちの世界にっ…」

目元が熱くなり涙がこぼれた。こっちに来てからまだ、2週間程なのに、その2週間が濃ゆすぎたせいか体も心もボロボロだった。

「…大変だったんだね…」

自分より年下だろう鈴は僕の頭を優しく撫で、「大丈夫」と何度も繰り返した。



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無一文のお仕事 くろ @Tenra

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