無一文のお仕事

くろ

第1話、やってきた異世界

気がつくとそこは異世界だった。

「いわゆる、異世界転移か!」

転移された小波 天邪鬼(さざなみ あまのじゃく)は頭を抱えた。

(クッソぉぉ!やっとあのクソ親父がつくった借金を返し終わって、やっと好きなことが出来ると思ってたのに!)

「よし!こうなったら異世界で楽しんでやる!」


そうやって意気込んだのが1週間前。

きずくと詐欺師に騙され、天邪鬼は奴隷として売られることとなった。

この世界には一応、魔法というものがある。魔力はどんな人でも持ってはいるが異世界からやって来た天邪鬼にはそんなものは1ミリもなかった。そのせいか、奴隷の中でも最底辺の扱いを受けてしまっていた。

(お腹減った…日本に戻りたい…日本で…)

冷たい檻の中で倒れている僕に誰かが話しかけてきた。

「ねぇ」

(お腹減った…)

「ねぇって、聞こえてる?」

「?」

ゆっくりと顔を上げるの僕と同じぐらいの歳のフードを被った人が話しかけてきていた。声のトーンからして、多分男だろう。

「おっ!やっと顔があったね」

そういうと嬉しそうに笑った。

「ねぇ、僕と一緒にこない?」

手を差し出してそういう彼に、気がつくと僕は彼の手を取っていた。

「…ありがとう」

彼はそう言うとポケットから鍵を取りだし檻を開けた。

「さぁ、おいで」

僕はおそるおそる、檻から出た。

「お客様?こちらの奴隷のお会計をお願いしたいんですけど…?」

僕を毎日殴っていた奴隷商人が気持ち悪い笑みを浮かべながら彼にごまをすっていた。

「あぁそうだったな。…これで彼を洗って綺麗な服を着せてやってくれ」

どんな大金を渡したのか、奴隷商人は気持ち悪い笑みを深くして従業員に命令した。

「おい、あいつを連れて行って洗って服を着せてやれ」

「はい!」

僕は両脇を捕まれ連れてかれた。

「行ってらっしゃい」

彼はにこにこしながら僕を見送った。

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