高嶺の花

海湖水

高嶺の花

 「……そろそろ卒業か」

 

 受験も終わり、卒業を迎えるのみとなった自分は、教室からグラウンドを眺めていた。放課後という事もあって、教室には誰もおらず、グラウンドでは野球部や陸上部が運動していた。

 そろそろ告白の準備をしなければ。そんなことを考え始めてから一週間がたった。

 なんといっても、告白しようとしている相手はこの学校のマドンナ、船岸ふなぎしさんだ。しかも、彼女はたくさんの男に告白されてきたにも関わらず、未だに彼氏がいないという。

 もしかしたら船岸さんは自分が告白するのを待っているのかもしれない、とポジティブに考えるのもよいかもしれないが、準備ができるのならした方がいいだろう。


 「ラブレターとか書くことないからな……というか、手紙さえほとんど書いたことないし」


 教室でラブレターを書き始めて2時間が経とうとしていた。家で書こうとすると、親が普通に告白しろだのなんだのうるさいのだ。

 もちろん、教室で書くことによるデメリットもある。クラスメイトに見られてしまったら、特に男に見られてしまったら、自分はマドンナの隣を奪い合うライバルの一人として認識され、多数の男子から妨害を受けることになるだろう。そうなれば、船岸さんの隣を狙う戦いに大きな遅れをとることになる。


 「けど、ラブレターは最高の出来に仕上げたいしな~。多少のリスクは背負ってもラブレターは学校で書くか。家だと集中できないや」


 ラブレターは半分くらいは決まったのだが、残りは全くと言っていい程決まっていない。どこの大学に行くのか、近い大学なら家から通うのか、趣味は何か、好きな場所はどこか。聞きたいことは山ほどあるし、ラブレターに書きたいことも次から次へと湧いてきて、まるで尽きることがない。だからこそ、内容が洗練されたものになるように、書かなくてもよいことを削り、本当に書かなければいけないことを書いている。

 だが、やはり恋した相手への気持ちは止まらないというもので、内容を決めきるには、そこから1時間もかかってしまった。


 



 「さて、船岸さんはどんな反応をしてくれたかな?」


 次の日、自分は放課後の教室で船岸さんを待っていた。

 船岸さんに、もし自分と付き合ってくれるのならこの教室に来てほしいと、ラブレターで伝えたのだ。

 大丈夫だ。きっと来る。自分の今までの努力を思い出すんだ。

 心を奮い立たせていると、教室のドアがノックされた。


 「ふ、船岸さん⁉来てくれ……」

 「お、お前……そんなに俺のことが好きだったのか……。すまない、俺には好きな人が」

 「……え?」


 目の前にはクラスメイトが立っていた。野球部に入っていた名残か、髪の毛はとても短い。

 というか、なぜこいつが来たんだ?……まさか。


 「ラブレターを入れる場所を間違えた?」

 

 自分は絶望と、そして恥ずかしさと共に教室を飛び出した。

 自分のポエムチックに書いたラブレターをクラスメイトに読まれたという恥ずかしさに、思わず涙が流れる。

 

 「いつか、いつか!!同窓会とかであった時とかに、告白するんだ~!!」


 自分は赤面しながら叫んでいた。

 自分は船岸さんを振り向かせるスタートラインにも立てていなかったのだ。

 だが、いつか必ず、スタートラインくらいには立って見せる。

 そんな決意を胸に、俺は明日のクラスメイトへの言い訳を考えていた。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

高嶺の花 海湖水 @Kaikosui

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る