第84話

 メイドに案内され、日差しの照り付ける渡り廊下を歩く。

 廊下を歩いている最中も、ハイネマン司教にこの話をするべきか迷うが……。

 そんなことを考えていると、応接間の前に辿り着く。

 既にハイネマン司教は中で待ってるようなのでドアをノックする。一応、何もせずにバーン! って入っても良いんだけど宗教勢力にはある程度敬意を払うのが無難だろう。

「どうぞ」と中から声が聞こえたので、ドアを開けるとハイネマン司教は立ち上がっており、こちらにお辞儀をしている。

 俺も少し会釈をしてから、ソファーに座る。どうぞという意味を込めて手を差すとハイネマン司教も対面にソファーに座り込む。


「新しく茶を頼む」


 ハイネマン司教の前には既に茶が置かれてはいるが、冷えているだろうし俺の分はなかったしね。「畏まりました」と応接間からメイドが退出する。

 メイドが退出したのを確認すると、ハイネマン司教が口を開く。


「お忙しい中お時間いいただきありがとうございます」

「いえいえ。お気になさらず」


 忙しくはなかったけど、いかんせんタイミングがね。とは口にも出さない。


「それで、今日はどのような用件で?」


 そう問いかけると、ハイネマン司教は懐からおもむろに聖書を取り出す。

 なぜ? 今このタイミングで? 説法でも始まるのかと思っていたら聖書の間に挟まっていた一通の手紙を俺に差し出す。


「王家の第五王子のジーク殿からお手紙を預かっております」


 なるほど……。用件はこれだったのか。

 宗教者を手紙のやり取りに使うのか。いや、まぁ確かに中立勢力で王国各地に支部が存在するし貴族とかも接触しやすいって考えたらこれ以上の存在はいない。

 貴族も宗教者を強引に所持品検査をするのは、反感を買うリスクを考えたら難しいしな。

 内容は気になるが、どんなことを書かれているか分からんし、一回持ち帰って確認するか。もしかしたらハイネマン司教は知ってるかもしれないが。

 懐に手紙を入れる。


「返事はまた後日でも構わないかな?」

「えぇ。もちろんです。ただ……少しばかり寄付金を」


 まぁ彼らだって慈善事業でやってるわけじゃないだろうしな。そこは仕方ない。

 そこでドアがノックされ開かれると、茶や菓子を持参したメイドが戻って来た。

 メイドは手早く準備を済ます。


「すまん。外で控えていてくれるか?」


 そう頼むと「畏まりました」とメイドは応接間を後にする。

 この先にしようと思ってる話は正直あまり第三者がいる場所ではしたくなかったからな。

 ハイネマン司教もメイドを外に出したことに不思議そうな顔をしている。


「ハイネマン司教……質問したいことがあるのですが良いでしょうか?」

「えぇ。もちろんです」


 人の良い笑みを浮かべて快諾してくれるハイネマン司教。でも宗教者ってすごい人格者に見えても異教徒にはすごい厳しいイメージがあるんだけどね……。

 まぁハイネマン司教がそうとも限らないが。

 俺は茶を一口飲み、口を潤してから口を開く。


「……アリエスト教と獣人族の関係性について教えていただきたい」


 その質問をした瞬間、ハイネマン司教の人の良い笑みは消え失せ、どこかこちらを試すような真剣な表情を浮かべる。

 普段の人の良い笑みを知ってるせいか、その顔にはどこか恐怖を感じた。




あとがき。

普段こんなこと書かないのですが、実は近況ノートにヒロインのイメージ画像を公開しました。もしよければぜひご覧ください。最高です(脳死の感想)

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