第83話

「……なるほど」


 やはりか。

 隣にいるレイラに目を向けると、心苦しいような表情を浮かべている。あぁ。わかるよ。

 獣人族のミミと仲のいいレイラが一番理解しているだろう。確かに身体的や能力的な特徴の違いはあるだろうが、彼らとは話もできるし手を取り合うこともできる。

 なぜ、アリエスト教は獣人族を攻撃したのか、色々と理由は思い当たるが、今は獣人族のその後の歴史を聞く方が先決だ。


「ご先祖様はそれでも他の獣人族と結託したりして抵抗したようですが……」

「オーラと魔法か」


 アルテもその通りですというべき表情で頷く。

 彼らは確かに優れた身体能力を有するが、この世界の人間は銃弾を切り裂く騎士など前世からしたら想像以上に強い。

 勿論全員が騎士のような実力ではないにせよ、オーラも魔法も使えない獣人族からしたら、強敵だろう。


「その後は、人族の支配を受け入れるか、もしくは新天地を求めて逃亡するか。最後まで戦って滅亡した種族など。様々な種族が変化の波に吞まれました」


 まぁ話を聞く限り、そうなるだろうなと思った。

 獣人族も複数の種族で纏まりきれていなかったように話の流れから感じる。対する人間は宗教と言う名のもとに団結した1つの塊だ。

 まして能力的な差も加味すれば獣人族に勝利の目は薄いと感じる。


「そして、生き残ったのがアルテ達のような種族なのか」

「……はい。他に隠れ里で命脈をつないでいる獣人族もいないとは言い切れませんが。少なくとも私は知りません」


 俺は顎に手を当て考える。

 彼らの境遇とそれにまつわる歴史を知れて良かった。ウォルフのかつて言っていた野望はこういう背景があったからなのか。

 だけどなぁ……難しい問題だな。公爵領内において奴隷として扱われる彼らの解放はできるかどうかで言えばできる。だけど前世の価値観により彼らを解放したからといってすべてが解決するわけではない。

 奴隷と言う資産を没収された人たち気持ち、解放された彼らの新たな生活の場などいろいろと問題はあるが、それらはまだなんとかなるかもしれない。

 だけど、一番の問題は解放されたからと言って迫害がなくなるとは言えないことだ。


「アイン様……」


 あぁ。レイラの気持ちも痛いほどわかる。

 彼らの有用さというか、獣人族の理解を深めようにも彼らは潜入などの情報収集を任せている都合上露出が多いのはよろしくない。


「うちの領内に限ってはアルテ達が無碍に扱うことはないと約束しよう」


 これが俺にできる精いっぱいだ。

 アルテ達はまだなんとかなるが、領内の他の獣人奴隷にアレコレするのは難しい。貴族の特権としてできるが、それをすると領民の反感を買う。せっかく安定しつつある統治体制が揺らぐ可能性がある。

 奴隷じゃない獣人がいるのは宗教者からすると問題かもしれないけどな……。


「すまん……こんな雰囲気にするつもりはなかったんだが」


 なんというか、気になって聞いてしまったことが悔やまれる。

 こういう展開になるのは予想出来ていたはずだが、タイミングを間違えてしまった。

 場には何とも言えない空気が漂い、どうしようかと悩んでいる時一人のメイドが近づいてくる。


「ハイネマン司教が面会を求められています」


 いや……本当になんでこのタイミングなんだよ……。


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