第82話

「アイン様こちらもどうですか?」


 晴れた日の昼下がり、中庭でレイラを伴ってお茶会に勤しんでいた。

 最終的にレイラとの距離を縮めきれなかったのは、俺の心の問題だったわけだが……。

 だが、お互いの気持ちを知ることが出来た今。俺は夢に描いたレイラとのイチャイチャ生活を送れているわけだ。

 俺はレイラからのあーんを受け入れている隣で、気まずそうな表情を浮かべながら大人しく椅子に座っているアルテの姿があった。


「あの……なぜ、私は此処に」


 そんなの俺がハーレム気分味わいたいからに決まってるだろ? という冗談はさておき。

 俺はカップを机の上に戻し、表情引き締めてアルテに向き直る。


「単純に親睦を深めたかった……という思惑もあるが、アルテに聞きたいことがあってな」

「私に聞きたいことですか……」


 俺は一つ頷く。


「獣人族の歴史について……あまり文献にも記述がなく、アルテから直接聞きたいんだ。無理にとは言わない」


 本来ウォルフなら知ってることも多いかもしれないが、彼は現在カスターレン伯爵の偵察に出掛けている。領民が集団逃亡したやつらがどう出るか予想がつきにくいところがあるし、必要なことだ。

 お茶会の場を少し乱してしまった気がしたが、レイラも興味があるようでアルテの方を見つめていた。

 アルテも、少し悩んだように下を向く。


「私見で良ければ……」

「ぜひ頼む」


 アルテも話すことに決めたのか、真剣な面持ちでこちらを見つめる。


「はるか昔、獣人たちは種族に分かれてそれぞれの部落で暮らしていました」


 今でこそウォルフが族長を務めてる部族は様々な種族がいるが、かつてはそれぞれに分かれていたという事か。


「好戦的な部族もいれば、融和的な部族もあったと聞きます……そういった部族はこの世界のあちこちに存在したらしいです」

「そんな様々な部族が存在したのか」


 実際にこの目で見たのはミミの猫耳獣人とアルテやウォルフのような狼獣人しか見たことがなかった。他にどんな種族がいるのかシンプルに気になった。

 俺の言葉に、アルテは自身の耳を指さし、ピョコピョコ動く。


「好戦的な部族ですと私たちです」


 あぁ狼だもんな……。

 ってかアルテが耳を指さすから、レイラが気になって頭を撫でていた。

 アルテも気持ちよさそうに表情が崩れている。羨ましい……。

 俺は話に戻るために咳を一つ吐くと、ハッとしたように戻る。


「えぇと……融和的な種族で言うと、牛人族ですかね」

「牛人族って言うと……あの頭に牛の角が生えたミノタウロス的な?」


 アルテは俺が知っていることに驚きながらも、その通りですと同意した。

 顎に手を当て考える。いや……ファンタジー世界とかでいうミノタウロスがいるのに、融和的だと? なんとなく中ボスにいる好戦的なイメージなんだが。


「彼らは確かに肉体は屈強ですが、農耕種族で穏やかな性格をしています」


 あぁ~。納得感があった。

 まぁ確かに牛って牧草食ってるイメージだしな……。それで農耕種族なのか。

 でも獣人族でいいのか? なんかイメージ的には魔族みたいな感じがするが。


「すまん。話が逸れたな」


 獣人族の様々な種族とそれに伴う特徴については大いに興味を惹かれるところではあるが、今日の本題ではない。


「いえ。そして、様々な種族がいたので争いもありましたが、獣人族全体で見れば平和な時代だったと聞いています。ですが、それはある日を境に変わり始めます」


 なんとなく、俺は確信を持っていた質問をする。


「……なにがあったんだ?」


 アルテは少し答えにくそうにしていたが、意を決したようにこちらの瞳を見つめる。


「アリエスト教からの攻撃です」

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