第77話

 少し眠たい目を擦りながら、砦の外で俺は突っ立っている。

 ここ最近マジで一番文章書いたんじゃないかって思えるほど、いっぱい書いたんだよな……。まぁまだ終わりじゃないんですけどね。

 暫く待っていると、街道上の先から公爵家の旗を掲げた一団が現れる。

 エーリッヒたちが帰ってきたのだ。正しく希望の光と言える。


「ご苦労だったなエーリッヒ」


 俺は近くまで来たエーリッヒを労うと、エーリッヒは馬上から降りて辺りを見渡す。


「公爵閣下。これは一体……」


 まぁエーリッヒが戸惑うのも無理はないだろ。

 入領審査というか、面接待ちの逃亡農民が砦の周りに仮設テントを張って、順番待ちをしている。


「ようこそエーリッヒ。砦の外で待機している彼らの手続きや、それに伴う大量の書類の山が君を待っているぞ」


 俺は両手を上げてエーリッヒを歓迎する。さぁ、この終わることのない書類仕事の犠牲者に加わるのだ。

 エーリッヒは少し嫌そうな顔をしながらも、なるほどと小さく声を漏らした。

 改めてエーリッヒの後ろに隊列を組んでいる兵士たちに目線を向ける。


「兵士たちは先に護衛も兼ねて農民たちと一緒に領都に送る」


 正直人が集まることで戦の準備をしていると敵に勘違いされるも嫌だが、単純に兵士たちと農民たちを収容するスペースがないのだ。砦の外にテントが増設されているのもそれが原因と言える。


「なるほど。畏まりました」


 エーリッヒは頷くと、兵士たちに振り返りテキパキと指示を飛ばしていく。

 兵士たちには新兵なども多いため、疲れて不満そうな顔をしている者もいたが、こればかりは仕方ない。

 兵士たちは指示に従ってゾロゾロと移動を始める。彼らの移動を見送っていたエーリッヒはこちらに振り返る。


「公爵閣下は?」

「もう少しで爺が到着するはずだから待ってるさ」

「畏まりました。休憩も程々に」


 エーリッヒは馬上に跨り、砦の方に駆け出す。

 バレていたか……。まぁね? ちょっとだけね?

 そんなことを考えていると、ヘルベルトの率いる一団が現れた。


「おや? アイン様自らのお出迎えとは有難いですな」

「爺が心配でね」


 俺は肩を竦めると、ヘルベルトは、がははと笑う。


「いくら老体と言えど、睨めっこするだけですぞ。強いて言うなら暇だったぐらいですな!」


 ひとしきり笑うと、ヘルベルトはこちらの顔を見つめる。


「さてアイン様は砦に戻られないので?」


 俺は気づかれないように、ヘルベルトから目線を逸らして答える。


「ヴェルナーが帰るまで待とうかなと……」


 背筋をつーっと汗が流れる。

 ヘルベルトは一つ溜息を吐くと、手を伸ばし俺の襟元を掴む。

 ふわっと浮遊感が訪れて驚く間もなく、俺は馬上でヘルベルトの後ろに座らされていた。首も締まらなかったし、今のマジでどうやったんだ……?


「もう何年の付き合いだと思っておられるのやら。アイン様が誤魔化すときの癖などとうに知っておりますぞ」


 俺の思惑などお見通しと言うわけか。


「爺には適わないな」

「ま。年の功というやつですな! さて仕事に戻りますぞ。何、儂も手伝いますぞ」


 俺はヘルベルトの腰に手を回して、しっかりと胴体を掴む。

 昔はよく後ろに乗てもらっていたもんだが、懐かしいな。

 ヘルベルトの気遣いか、ゆっくりとした足取りで砦へと向かった。

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