第78話
砦に辿り着くと、兵舎の方から言い争う声が聞こえる。
何事かと思い、兵舎に入ると仁王立ちのエーリッヒとクルトが睨み合ってるのが見えた。
「主君には休んでもらうべきです!」
そう食って掛かるクルトにエーリッヒは態度も表情も変わらない。
「公爵閣下の意を汲むならば、みなで作業したほうがいい」
一体なんでこうなったんだ……。
俺は付近で様子を眺めていた兵士を手招きする。
「なにがあったんだ?」
「公爵様! それが……」
俺がそう聞くと、兵士は少し困ったような顔をして説明を始める。
どうやら、クルトがエーリッヒや別動隊が帰還したし俺の体調を考えて休んでもらおうという話をエーリッヒにしたらしい。
だが、エーリッヒは俺がなんで面接のようなことや書類仕事に取り組んでいるのかの状況を速やかに把握した。そのため、俺の目的のために俺を含めた全員で早急に仕事を終わらせるべきだと反対したらしい。
「なるほどな……」
まぁでも二人とも俺のことを考えてくれている感じがする。方向性が違うだけだと感じる。
兵士の話を聞いてる最中も彼らの会話はヒートアップしていた。
「主君に捧げた私の忠誠に偽りはありません」
「まぁ私の方が公爵閣下に長らく忠誠を誓っています」
余裕そうなエーリッヒにクルトは悔しそうな顔をする。
でもエーリッヒもヴェルナーやヘルベルトと比べると新参なほうだよね……?
「……忠誠に期間など関係ないと思いますが」
「ふっ。その年月分、公爵閣下のことを理解しているということです」
勝ち誇るようなエーリッヒにとうとう我慢できなくなったのか、クルトは手袋をエーリッヒに投げつける。
「私の忠誠に偽りはない。それを示すために決闘を申し込みます」
「いいでしょう。受けて立ちます」
俺はさすがにまずいんじゃないかと思い、止めに入ろうかと思ったが肩を掴まれる。
振り返るとヘルベルトが俺の肩を掴み、首を横に振っていた。
「ここは儂にお任せを」
俺のことで言い争うのは辞めて! なんて姫ムーブかますのは状況的にまずそうだったし、ここはヘルベルトに任せるのが一番か。
流石、こういう時は頼りになる。
ヘルベルトはズカズカとクルトとエーリッヒの間に割って入る。
「それでは、この決闘の立会人は儂が努めよう!」
え? 止めてくれるんじゃなかったの?
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