第73話

 コホンと一つ咳払いをして話を断ち切る。

 まぁ。どうしても前世の価値観に引っ張られているから変に見えるんだろうな。俺は今更自分の性分を変えるつもりはない。なんならみんなの価値観を変化させれば、俺が浮くこともないのでは? 木を隠すなら森の中というしな。完全なる開き直りではあるんだけどね。

 それはさておき作戦の話に戻る。


「とりあえず話を戻すが、作戦に伴って重要なのは二人の協力だ」


 ウォルフもグレゴリーも先ほどの空気とは打って変わり真剣な顔持ちでこちらを見つめる。


「残念ながら我々が現在保持している地図はこれ一枚だけだ」


 俺は机の上に置かれた地図に指先を落とす。

 何枚か書き写したのは優先して商会に渡して配ってもらうようにお願いしたからな。


「分割した16のすべての部隊に地図を持たせることはできない。そこで、現地を視察し情報を知っている獣人族たちを各部隊に一人ずつ配置することで補う」


 そこまで説明すると、グレゴリーも納得の表情を浮かべ、うんうんと唸っている。


「また16の部隊を全てを効率的に纏め上げ運用するには騎士が足りないため、グレゴリーの部隊の経験豊富な者を各部隊に纏め役として配置する」

「なるほど。だから俺も呼ばれたんですね」


 グレゴリーの言葉にそうだと頷く。


「纏め役などはグレゴリーに一任する。また、ウォルフもグレゴリーと相談の上で各部隊に配置する獣人たちの選定を始めてくれ」

「了解ですぜ」

「承りました」


 二人は了承し立ち上がると、さっそく取り掛かるとのことなので部屋を退出していく。二人が出ていき、ドアによって隔てられていたが彼らの相談する声が聞こえる。

 ちゃんと協力してくれてるようで何よりだ。


 俺は机の端の方に置かれていた茶器を手に取る。

 既に冷めていたが、喋っていて乾いた喉に染み渡っていく。

 最初は茶器を持つ際の礼儀作法を習得するのにも苦労したものだが、なんとかなるものだな。

 優雅に茶を楽しんでいると、クルトが少し身を乗り出しながらこちらに顔を近づける。


「主君。我々は?」


 ちょっと会話にあまり参加できなかったからアピールできる場が欲しいのかな?

 俺はカップを皿の上に戻し、笑顔でクルトに向き直る。


「俺たちはお留守番だよ」


 笑顔でバッサリとクルトの希望を斬り捨てた。

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