第72話

 臨時の応接間の扉が開かれ、呼びに行ったクルトとグレゴリーが入ってくる。

 グレゴリーは室内に入るや否や、ウォルフの姿を見て驚いていた。

 そういや、二人が合うのは初めてか。


「獣人は嫌いだったかな?」


 この質問は好き嫌いっていうよりも、仲良くやるよね? という確認の意味を込めている。

 グレゴリーは少し慌てながら、手を上げ首を横に何度も振る。


「いや。私としては獣人になんの悪感情もありませんがね。貴族様の方々は獣人嫌いが多いので驚いただけです」


 あぁ。そういや王都にいった際にもミミを見て蔑視している輩がいたな。俺は気にしないけど。でも、今更だがなんで迫害の対象なんだろうな?あとでハイネマン司教にでも聞いてみるか。博識だし。

 思考が変な方向に脱線しかかっていたので、軌道修正する。


「まぁ改めて紹介するとしよう。彼がうちで諜報などを担当している種族……部隊? まぁそこの纏め役のウォルフだ」


 まぁ彼の娘のアルテは族長って言ってたし部族の長ってのが適当か?

 ウォルフは立ち上がり、グレゴリーに向かって軽くお辞儀をする。


「そしてこちらが、最近うちで雇った兵長……部隊長?のグレゴリーだ」


 いや、なんかいざ紹介するってなると困るな。

 二人とも正式な肩書きを作ってあげるべきか。

 グレゴリーもウォルフに向かってお辞儀するが、ウォルフは自信の籠った笑みを浮かべる。


「存じておりますぞ。のグレゴリー殿」


 あんまり金山警備から動くことがなかったグレゴリーを把握しているというのは

 流石と言うべきか。

 言い当てられたグレゴリーとして面食らっている。


「いやぁ~なるほど。ちょっと恐ろしいというのが本音ですがね。味方としては心強い」


 グレゴリーは驚きながらも、ウォルフに歩み寄り右手を差し出す。


「よろしく頼むぜウォルフ殿」


 ウォルフは、その右手をしっかりと握り返し笑みを浮かべる。


「こちらこそ。グレゴリー殿」


 まぁ……仲が良さそうなのでなによりかな?


 俺は1つ咳払いをする。


「とりあえず作戦の説明に入るから、各自着席してくれ」


 そう促すと、対面にウォルフとグレゴリー。俺の隣にはクルト。2対の長椅子なのだが、男4人が座るとまぁまぁ狭い。ってかクルトなんか近くね? そっち余白あるよね?

 まぁいいか……。俺は諦めて机の上に地図を広げる。


 地図は、例の逃走ルートが記載された地図だ。

 あぁ。そういやグレゴリーには呼び出したが、状況を説明していなかったな。


「グレゴリー。包囲網貴族の情勢は理解しているか?」

「えぇ。もちろんです」


 まぁ実際例の対面した貴族……名前は知らないんだが、彼との会話の際もすぐ後ろにいたしな。


「そこでだな。包囲貴族の領地の不安定化に伴って、農民がこちらに逃亡してきている。その農民を保護するのが今回の目的だ」


 グレゴリーに目をやると、理解しているようでうんうんと頷いている。


「そこで具体的な作戦なのだが、部隊を16個程度に分割しようと思います」


 そこでグレゴリーは納得したのか、あぁと声を出す。


「行方をくらますんですね」

「……よくわかったな」


 まさかグレゴリーに気づかれるとは、この考えは甘かったか? ほかに案は? と考え始めてしまう。

 発言した後、真剣な顔して黙り込んでしまったので、気に障ったと勘違いしたのかグレゴリーは慌てて弁明を始める。


「いや、傭兵ではよく使う手なんでね。一塊になって逃げると騎士には手柄になると思われるんで、散り散りに逃げてあとで合流するんですよ」


 なるほど。確かに、傭兵は農民兵と比べて戦闘のノウハウが蓄積されているからこそか。となると重要なのは……。


「敵に傭兵がいるとして、気づいて進言すると思うか?」


 おそらく騎士であったクルトは気づかなかったので、貴族や騎士は問題ない。重要なのは、そこに雇われている傭兵が進言するかどうかだ。

 グレゴリーは腕を組んで少し考え込む。


「う~ん。ないと思いますがね。そもそも軍を使ってやるっていうスケールの大きさからして気づきにくいと思いますし、気づいても進言はしないと思います」


 俺も少し前のめりになる。


「それはなぜかな?」

「単純に普通の貴族なら傭兵の意見なんて聞き入れないからですな。逆に進言して反感を買う事の方が恐ろしい」


 あぁ~。なんかすごい納得感ある。

 貴族は農民のことなんてどうでもいいと思ってるし、傭兵なんてものも農民兵よりは使い勝手のいい駒程度にしか思ってないのか。

 それにしても……。


「まるでその言い方だと元傭兵の意見を聞く私が普通の貴族じゃないって意味に聞こえないか?」

「え? 普通だと思ってたんですかい?」


 グレゴリーが驚きながら質問で返してくる。なんならウォルフもクルトもちょっと驚いている。

 おいやめろよ。ちょっと傷つくじゃん……。








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