閑話 レイラ

 公爵領の領都の中央に聳える城。

 騎士など兵士が出払ったため、静けさを見せている。


 そんな城の中庭には赤や青などいろいろな色や種類の花が咲き乱れている。

 以前は、庭園を維持するお金を節約していたのだが、アインの命令により庭園は復活を遂げた。そんな華やかさを取り戻しつつある庭園ではあったが、場には何とも言えぬ寂しさが漂っている。

 長らくバルティア公爵家に勤めていたメイドのメリアが給仕を行う。普段はもう少し元気のある主が何度も東の空を気にしている。その様子をメリアは呆れながらも心配に思っていた。


「お嬢様。公爵様に会えなくて寂しいのですか?」

「っ……そんな分りやすかったですか?」

「えぇ。とても。まるで恋する乙女のようでした」


 レイラは手で顔を抑え少し赤くなりながら、うぅ~と可愛らしい鳴き声を漏らす。

 そんな様子を眺めながらもメリアとしてはよい傾向だと思っていた。先代の頃は外交の道具としか扱われておらず、どこか心を閉ざしていたレイラをメリアは心配に思っていた。

 そのころと比べると、笑顔が増えており心を開くようになっていた。

 そのため、レイラを気遣い優しく接してくれていたアインにメリアとしては感謝していた。

 メリアとしても、この初々しい反応を見せるレイラを少しからかいたくなってしまった。


「お嬢様は公爵様のどこが好きなのですか?」


 レイラは、恥ずかしさを隠していた手を離しメリアのほうを見つめる。


「……アイン様に言わないと約束してくれますか?」


 勿論ですという意味を込めてメリアが頷くと、レイラは少し瞳を曇らせながら答える。


「全部です」

「え?」


 少し驚いたメリアを余所にレイラはぺラぺラと呪文のように口を開く。


「まずあの優しさですよね。みなさんを惹きつけながら引っ張て行くけど、どこか頼りないところもほっとけないですよね。顔もカッコイイですし、体も鍛えられてて……」

「お嬢様。すいません十分に理解いたしました」


 レイラの剣幕に押され、問いかけておきながらメリアは降参してしまった。

 だが、同時にメリアは疑問に思ってしまった。


「でも、関係はあんまり進んでいないんですよね?」

「うっ……」


 レイラは奥手でアインもどこか引け目があるのか一歩を踏み出せていない状況なのをメリアとしても憂いていた。


「押し倒してもしまえばいいと思うのですが」


 どうせ両想いなんだろ? さっさとくっつけよと思ってしまうメリアだった。

 だが、レイラは顔を真っ赤にしながら反論する。


「そんな、はしたないことできませんっ!」


 恥ずかしいのだろうが、メリアとしても少し危機感を認識させた方がいいと感じていた。


「でも、こうしてる間に、もしかしたら公爵様も現地に愛人でも作るかもしれませんよ?」


 そう問いかけた瞬間。メリアはしまったと自己の過ちを認識していた。

 レイラは赤かった顔色は普通に戻り、瞳は黒く濁る。


「貴族なら妻の一人や二人は普通ですから、私も反対するつもりはありません。ですがアイン様に限っては必ず私に話してからにしてくれると確信していますよ。秘密になんてしませんよね?」

「え、えぇ……その通りかと」





 一方そのころ。


「くしゅん」

「主君大丈夫ですか?」


 噂でもされているのだろうか?俺は少し鼻をこする。


「あっためましょうか?」


 クルトが俺を気遣ってくれているのが、なんか別の意味に思えてしまうのは俺の偏見なのだろうか?


「いや。大丈夫」


 俺が拒否すると、クルトは少しショックだったのか項垂れる。

 なんか最近ヤンデレ気味なクルトに、どこか既視感を覚えるのだけど……。

 近場に似たような雰囲気の人がいたような気がするんだよなぁ。


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