第67話

 俺は金山の警護を担当していたグレゴリーを呼び出していた。

 応接間には質素ながら、気品が感じられる雰囲気だ。だが、そんな応接間に重苦しい雰囲気が漂っている。

 ズズっとお茶をする音が響く。


 俺はカップを受け皿に戻すと、改めてグレゴリーと対面する。


「さて。金山警護の件だがね契約を解除しようと思う」

「……なんとなく察しておりました」


 まぁそうだろうな。

 うちは先の戦の補填も含めて新たに3000人を超える志願兵の募集をかけている。

 自前の兵で警護できるなら、自前の兵でした方がいい。

 その方が安上がりで信頼できるからだ。やはり傭兵というのは損得勘定で考えるから信頼されにくい風潮がある。

 それでも、彼らの仕事ぶりは評価しているけどね。問題らしい問題も起きなかったし。


「意外と、ここでの生活は気に入ってたんですがね……」


 彼なりの意思表明か。

 契約更新して欲しいのかもしれないが、今だってうちに金に余裕があるわけじゃないし、削れる金は削っておきたい。

 当時だって兵がいなかったので彼らを雇ったのは緊急的な措置だ。


 グレゴリーはこちらを見つめてくるが、俺は何も答えない。

 契約を更新するつもりがないというのが伝わったのだろう。グレゴリーは少し残念そうな顔をして席を立とうとする。


「お世話になりました公爵様」


 謝辞を述べて、立ち去ろうとするグレゴリーに問いかける。


「あなたには2つの選択肢がある」


 グレゴリーの動きは扉の前でピタリと止まる。


「1つは、他の場所に行き新たな雇い主を探す道」


 出来る限りこの選択はしてほしくない。

 彼らが雇われるとすれば、対立する包囲貴族に属することになるだろう。

 そうなれば、戦地で相まみえるのは……。


「そして、もう一つが私に忠誠を誓うという選択肢だ」

「……それは騎士として雇ってくださるということですか?」


 グレゴリーの問いかけに首を横に振る。

 彼は実戦経験豊富で優秀だとは思う。だが、残念ながらオーラを使うことはできない。彼を騎士として雇うことは難しい。騎士たちにとってもオーラを使えることが誇りだからな。反発を招く恐れがある。


「私は志願兵を募集している」


 騎士として雇うのは難しくても兵として雇いたい。


「だが、勘違いしないでほしいのだが軍でも一定の地位を保証する。近々3000ほど集まるが、うちは騎士不足でね。指導できるほど経験豊富なものを募集している。もちろん衣食住も保証する」


 合計5000人近くの兵を管理するのだ。

 実戦は経験した者も半数いるが、まだ一度だけだ。実戦経験豊富な者の指導があるならありがたい。

 だが、断られたそれはそれでしょうがない。


 グレゴリーは少しばかり悩んでいる様子であった。だが、考えがまとまったのか一つ息を吸い込む。俺の前に近づきに跪く。


「改めて公爵様にご挨拶申し上げます」

「部下に相談しなくて構わないのか?」

「反対するならぶん殴って従わせるだけです」


 グレゴリーは少しお茶らけた雰囲気で返す。

 一見暴君のように思える発言も、部下のことを想っているのが見て取れた。


「……それに、興味がわきました」

「興味とは?」


 グレゴリーはこちらを真剣な目で見つめる。


「いろんな土地を流れてきましたが、この地は、税も低いし民の顔が明るい。そして、公爵様が何を為すのか興味が湧きました」

「それは……なんというか、少し恥ずかしいな」


 なんか注視されているみたいで気恥ずかしさを覚える。


「誤解しないでいただきたいのですが、公爵様に期待しておるのです。それは俺だけではなく、民も同じだと思います」

「そうか……」


 少しづつではあるが、俺の行動に結果が出てきているということかな。


「ならば。期待に応えるよう頑張らねばならないな。これから一緒に頼むぞグレゴリー」

「はっ!流民の身なれど、誠心誠意お仕えいたします!」




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