第66話
工房長はとりあえず考えがまとまったのか、溜息を一つ吐き頭を掻く。
「まぁこればっかりは、使う人の意見も聞いてみないといけねぇ」
「そうだね。今度何人か連れてくるよ」
使ってみて見えるものもあるだろうし、個人個人で要望が違うこともあるだろう。
工房長は義手や工具などを手に取り、部屋を出ようとする。
「とりあえず、何種類か作ってみます」
「あぁ頼むよ。あともう一つ依頼があるんだ。こっちは後回しでもいい」
そう告げると、工房長は目を輝かせながら俺の前へと戻ってくる。
おっさんだけど、目をキラキラさせながら好奇心旺盛なところが好きなんだよな。
だからこそ、俺のおもちゃ箱に付き合ってくれているわけだが。
手近な紙を手に取り、ペンを走らせる。
描き終わったソレを工房長に手渡す。
工房長はそれに目を通すと、怪訝な表情を浮かべている。
「旦那……これ縮尺間違ってませんかい?」
「いや。それであってるよ」
工房長も頭を悩ませているが、当然だろう。
巨大な攻城兵器だからな。この世界に前世で思い浮かべるような投石機などは存在しなかった。理由は単純で魔法がその地位を代替しているからだ。
だけど、魔法使いがエーリッヒぐらいしかいないうちからすると、魔法の打ち合い合戦は分が悪い。
実際、砦の防衛戦の際には、遠距離からの敵の魔法使いの攻撃を防ぐことも妨害することもできなかった。
火薬を詰めた箱を、敵陣に発射したら効果はそれなりに期待できるはずだ。
それはさておき。
「旦那、いくらなんでもこのデカさはうちじゃ人手も足りねぇ」
これはさすがに無理だという工房長を余所に、机の上にある義手を眺める。
「人手は確保できるさ。そのための義手や義足を開発するわけだからね」
「なるほど……そこまで考えてたんですかい」
負傷兵たちを工房で雇用するつもりだ。もちろん頭の良い人間などは、文官として雇うつもりだが。
肉体労働に適正のある人物もいるだろし、こういった仕事の場は必要なはずだ。元々工房も人手が足りなくて細々としか運営できてなかったしな。
これを機に、工房を大きくしていきたいと考えている。
「これからは多くの部下を抱えることになるだろうな」
「そうですな。でもまぁ。大きなもの造るのはワクワクしますな!」
まぁ工房長も乗り気なようで良かった。
当人の性格からして、興味惹かれるだろうとは思っていたけどね。
「まぁともかく。現状は義手と義足の開発が最優先かな。銃の改良と投石機の開発は後回しでもいい」
「わかりました旦那。すぐに取り掛かりますんで、対象となる人を後で送ってくだせぇ」
「あぁもちろんだ」
握手を交わし、工房を後にした。
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