第65話

「なるほどなるほど。とりあえず使えそうな材料とかパーツはあるんで作ってみますか」

「あぁ。ぜひ頼む」


 工房長はそう言って部屋を出ていく。

 残された俺は部屋のあちこちに積み重なっている紙を手に取り、それを眺める。

 こういうものも提案したな~など懐かしさを感じる。

 中には、ペンで情報が付け足され試行錯誤していることが見て取れる。


 時間にして10分ほどだろうか。工房長が義手のようなものと、いろんな工具を手に取り部屋に入ってくる。

 工房長の筋肉隆々の姿からは想像できないほどに器用かつ繊細に作り上げた。


「思ったより早く出来たね」

「えぇ。まぁこれでもドワーフの血を少しほどですが混じっておりますからな」

「は?」

「え?」


 初耳なんですが……。


「ドワーフだったの……?」

「え、えぇ。一応父方の先祖にドワーフがいます」


 ドワーフは獣人より珍しいからなぁ。公爵領でも見たことがない。

 でもまぁ納得だ。工房長の創作に対する意欲や手先の器用さなどは遺伝だったんだな。


「ドーワフの里知ってたりしない?」

「いやぁ~。本人はもう居りませんし、聞いたことないですな」


 ドワーフの里とか、喉から手が出るほど欲しいが……そう上手くはいかないか。

 工房長も何か情報はないかと頭を唸らせる。


「1つだけ思い出したのですが、当人たちの前でドワーフと呼ばないほうがいいらしいですな。儂は血も薄いし、気にしませんが」

「え? なんでだ?」


 工房長は肩を竦める。


「儂もよく分かりません。親父から聞きましたが、親父も理由をしらないので」

「そうか……ってか本題を忘れてた」

「そうでしたな!」


 俺たちは、改めて机の上に置かれた義手に目を見張る。

 シンプルな造りだが、それゆえ信頼性を感じられる。

 工房長は、義手の先端部分をいじると、部品が外れる。工具を付けて部品を締めると、ハンマーを持った義手の出来上がりだ。


「これは。思ったより良いな」


 初めての試作品のはずだが、出来栄えとして完成品と言っていいレベルだと感じた。

 まぁもちろん個人に調節する手間はいるだろうが、それでも十分と言える。

 出来栄えに感心していたが、製作者の当の本人はまだ納得していない様子だった。


「まだまだですな。もっと改良を加えて大きな道具を持てるようにせねば……・それなら耐久性が……でも、アレを使えば」


 工房長は発案者の俺そっちの気で、ブツブツと呟きながら自分の世界へと没入していった。

 こうなったら打つ手がない。

 基本的に俺はアイデアだけ出す。そして、それを結果として出力するのは工房長の仕事なので、俺は口出ししないのだ。


 懐かしさを感じながら、俺は工房長の独り言を聞きかじる。

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