第50話:ギリギリの勝利

「さて。あとは任せたよ」

「はっ!」


 ルメール兄上がそう言うと、兄上の家臣の騎士たちは突撃し、どんどんと敵を押し込んでいく。


「……覚えておけ」


 例の騎士はそう捨て台詞を吐いて、農民兵を盾に撤退を開始する。なんなら退路の邪魔な農民兵を斬り倒して通路を確保している。


 覚えておけもなにも、名前すら知らないんだけどな……。


 ルメール兄上は馬上から降りて俺に近づく。


「さてと。一旦片付いたようだし、まずはこれかな」


 そう言ってルメール兄上は拳を振り上げると、俺の脳天に叩き込んだ。


「~~ッ!」


 俺は思わず、頭を抱えて蹲る。


「父上からいつでも逃げていいと言ったのに無茶しおって、一発殴っておけとのことだったのでね」

「だとしてももう少し手心を加えてくれても良かったのではないですか兄上」

「手心を加えて、父上に叱られるのはごめんだね」


 まぁ父上のげんこつを食らおうものなら脳天割れそうではあるが……。


「まぁ間に合ったようでなによりってとこかな」

「正直助かりました兄上」

「アインの報告が早かったのと道が整備されていたからだね」


 まさか、こんな形で俺の行動の結果が返ってくるとは思ってもいなかったが……。


 そんなことを考えていると、撤退を告げる笛が吹かれる。


「さてと、私は父上にどやされても嫌なので、多少の働きをしてくるさ」


 既に砦内に敵は残っておらず、ルメール兄上は馬上に跨る。

 周囲には兄上の騎士がすでに集結していた。


「ありがとうございます。ルメール兄上」


 兄上は返事することなく、手を軽く掲げて砦の外に向かって馬を駆けた。

 とりあえず、なんとかなったが。俺の見通しの甘さが浮き彫りになった作戦だった。発案者はクルトだったとしても、最終決定は俺が下したのだから俺の責任だ。


 あ。クルトのこと忘れてた。


 クルトは先ほど、いた位置と変わらないが、大地に剣を突き刺し跪くような姿勢で気絶していた。良かった……死んではいないようだ。

 とりあえず、外ではまだ戦いは続いているようだが追撃する余力も残ってない。なので、負傷者の手当てなどを優先しなくては。


「手の空いてるものは負傷者は兵舎に担ぎこめ、手当てを行え!」


 俺の号令に従い、生き残った兵は、戦友の肩を掴んだりしながら兵舎に向かう。

 俺もクルトの肩に手を回すが、うっ……重い。

 まぁ俺自身も鎧を着ているし、その上で鎧を着こんでいる成人男性を運ぶのはかなりしんどい。こういう時は身体能力向上できるオーラが欲しいと切実に思う。


 クルトを引きずるように運んでいると、ふと軽くなった。

 俺にもついにオーラが?と思ったが、隣を見ればエーリッヒがいた。


「お手伝いしますよ公爵閣下」

「助かる」


 まぁ……今更オーラが発現するなんてありませんよね……。


 俺達はなんとかクルトを兵舎に担ぎこみ、簡単な手当てを行った後、空いてるベッドで横にした。

 俺は、付近の適当な壁を背に座り込み、疲労感から意識を手放した。

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