第49話:砦防衛戦Ⅴ

 敵は砦を攻めながら、後背を攻撃されたので兵たちに動揺が走っている。

 だが、それでも彼らは兵を纏め上げ、砦攻めを敢行しているため戦いは激しさを増していく。


「公爵様! 城門の方に騎士3人が!」


 兵士の報告に切羽詰まっている様子が見て取れた。


「分かった。今行く」


 俺は護衛の者を引き連れて、城門の方へと戻る。すでに予備隊はなく、みなが懸命に戦っている。ここさえ耐えることが出来たら……。


 城門の前に辿り着くと、クルトを始め数人の騎士が例の降伏を勧めてきた騎士たち3人と対峙していた。


「やってくれたな……だが、公爵お前の首を取れば我々の勝ちだ」


 例の騎士は俺を睨みつける。


「私を倒してからにしてもらいましょうか」


 クルトは例の騎士の前に立ちはだかる。

 クルトは既に、あちこちに傷があり、血が滴っている。誰が見ても満身創痍だというのが見て取れた。


「多少は腕は立つようだが、おまえも公爵もここで殺してやろう!」


 敵の騎士の上段からの斬り下ろしに、クルトは防ぐのではなく、剣を沿わせることでその軌道をずらす。

 満身創痍ながら、体力を無理に消費せず最小限の力で敵の攻撃を防ぐのはさすがだと感じられた。


 だが、ずっと彼らの戦闘を観察するわけにもいかなくなってきた。

 クルトが今まで城門を抑えていたが、敵の騎士を抑えないといけなくなり、農民兵が城門前の包囲網の隙間を縫って、続々と侵入してくる。


 俺も目の前にやってきた農民兵の胸に剣を突き立てる。

 俺が殺した農民兵は恐怖が顔にへばりついている。

 俺の手に血と微妙な暖かさが嫌にへばりつく。


 俺が剣を引き抜くと、糸が切れた人形のように地に倒れ伏す。

 心の中で、すまん。と一言だけ謝る。


 改めて周囲を見渡すと、あちこちで戦闘が繰り広げられている。

 このままではまずいな……。


「兵舎の方で態勢を整える!」


 あそこには負傷者もいるし、建物の内部で防御に徹するしかない。

 あそこに逃げ込んだら、いよいよ逃げ道はなくなるが……覚悟を決めるしかない。


 俺の号令で、兵士たちが兵舎の方に向かって後退していく。

 もちろん敵の方もそれに追随するが。


 だが、たった一人。逃げ出さないやつがいた。


「クルト! お前も下がれ! 死ぬぞ!」

「……ここは私にお任せを」


 クルトはこちらを振り返らずに、声のみの返事が返ってくる。

 立っているのもやっとだろうに。

 クルトが城門の前で圧を出してくれているから助かっている節はあるが、これ以上はさすがに。


 救出するために、兵士と家臣の騎士を送り込むか?

 いや、無理だ。既にクルトは大勢に囲まれている。


「公爵様! 裏門から新手が!」


 とうとう裏門まで突破されてしまったか……。

 残存兵力を引き連れて兵舎に立てこもるしかない。


 そんなことを考えていると、俺の頭上を一つの火球の軌跡が通り過ぎる。

 火球は城門のほうに着弾すると、盛大に爆発を起こす。

 俺は思わず後ろを振り返る。


「やぁアイン。間に合ったようだね」

「ルメール兄上……」


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