第47話:砦防衛戦Ⅲ

 翌朝。


 すぐに戦が始まるかと思ったが、前日の様にまた3人の騎士が出張ってきた。

 俺も城壁の上で相対する。


「昨日はよく戦った。その健闘は称えよう。だが、勝てないのは分かっているのだろう?諦めて降参せよ」


 性懲りもなく、降参のお誘いをかけてきた。

 だが、やつらも焦れてきているんだろうな。兵数は4分の1以下なのに、思っていたより硬く、手こずっている。そして、当初の計画より遅い進軍で食料に懸念でもあるのだろうか?


 まぁそれでも俺の返答は変わらない。


「つべこべ言わないで、かかってこい」

「……殺す」


 2日目の戦が幕を開けた。


 やつらは前日の犠牲者の死体を文字通り、踏み越えて迫りくる。

 精神衛生上宜しくない光景だが、彼らには進むしか道が残されていない。


 今日は開幕から派手に、城門にいくつもの魔法が打ち込まれる。

 昨日の夜にできる範囲で補修など行っていたが、そう長くは持たないかもしれない。


 城壁にも、すでに敵の農民兵は張り付いており、攻城戦が発生している。

 現在はなんとか守れているが、城門が破られたら、厳しくなるな……。


 そんなことを考えていると、敵の軍から一人の騎士が歩み出る。

 馬上の上からでも分かる大男で、肩にはハンマーを担いでる。あれは…マズイ。


「あの騎士を優先にして攻撃せよ!」


 俺は付近の兵に、命令を飛ばし矢や石の雨が騎士を襲う。

 だが、フルプレートでオーラに強化された体には、さほどの効果もなく。そのスピードが落ちることはない。

 慌てて馬に狙いを変えるように命じようと思ったが、既に敵の騎士は城門の前へと到達していた。


 大男の騎士はハンマーを振りかぶると、次の瞬間。


 衝撃で砦が揺れた。金属がひしゃげる音と土埃が舞い。否応もなく城門が突破されたことを実感させられた。

 冷や汗が背中を伝う。

 くそ……騎士というものを俺は甘く見ていたのか。

 警戒していたが、まさかハンマーで城門を破壊するとは……。


 俺がどうしようか逡巡している間に、一人の男が飛び出す。


「公爵様ここは私にお任せを」


 クルトは颯爽と、城壁の内側に飛び降りて、城門の出口の前で立ち塞がる。

 俺も最悪の場合を想定して、城壁の上の部隊の指揮をエーリッヒに任せ、予備隊を率いてクルトの少し後ろに布陣する。


 城門の通路から、先ほどの大男の騎士がのっそりと現れた。


「なんだァ?こんなひょろいのしかいねェのか?」


 ヘルメット越しで顔は見えないが、嘲笑しているのが見て取れた。


「……」


 クルトは何も言い返さず、いつものように泰然と剣を構えている。


「まァいい。俺の手柄にしてやろう」


 大男の騎士は、ハンマーを掲げると、その巨躯と重量に似合わない速度でクルトに振り下ろす。

 ズドンと音と共に土埃が舞うが、土埃が晴れた際にクルトはその位置にいなかった。

 ハンマーの位置よりも、大男の懐側に入り込んでいた。


「なんだァ?外しちまったか?」


 それでも大男の騎士はその重装備と巨躯に自信があるようで慌てる様子は見受けられない。今度こそ、必ず仕留めると言わんばかりに力を込めてハンマーを振り上げようとしたその刹那。


 ズルッ。


 敵騎士の意思に反して、ハンマーが持ち上がることはなかった。

 両手首から先が、その場に取り残されていた。

 関節を可動する上で、存在する唯一の隙間を奇麗に切断していた。


「な、なにが……」


 クルトが一振りすると、大男の騎士はそれ以上言うこともなく、首が落ちた。


 どうやら俺は騎士というものを甘くみていたようだ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る