第46話:砦防衛戦Ⅱ
すでに戦が始まってから、数時間が経過しようとしていた。
あれだけ準備した柵や堀は既に取り払われており、城壁には敵が張り付いている。
何度か事前に設置していた火薬を爆破させたが、初回以降は敵に動揺を与えることができなかった。
はしごを立て掛け登ろうとする農民兵を、突き落とす。我が軍は寡兵ながら懸命に防いでいる。
それでも、死傷者や負傷者は出るわけで……。
全体の様子を見ながら、予備隊の投入や休息。負傷者の手当てを適宜行う。
ドォォォオオオオン
激しい爆発音と振動で砦が揺れる。
音の鳴った方向を確認すると、土埃が舞っていた。
城門の方か……。
俺は状態の確認に向かう。破られてはいなかったようだが、門が少し歪んでいるのが見て取れた。
城壁に上り、敵軍を確認する。遠くを見渡すと5人程の男が農民兵の後ろに鎮座していた。その男達は周囲が光り輝きl魔法を唱えていた。
遠いな……弓矢や投石では届きそうにない。
てっきり城壁を崩すのに使うのかと思ったが、城門の方に使ってくるのか。
もしかして、この砦を落とすことは前提の上で、再利用するときのために城壁を残しておきたいのかもしれない。
その後も魔法による攻撃は続くが、なんとか城門は耐え抜き、日も暮れたことで敵は後退していった。
砦の内部では、みなが疲れた顔をしていたが、士気は未だ高く保たれている。
俺はせめて自分にできることとして、負傷者の手当てを手伝っていく。
「公爵様、恐れ多いです」
「いいんだ。私の責任だからな」
手当てを手伝っていると、エーリッヒに呼ばれた。報告をしたいそうなので兵舎の方に向かう。兵舎をドアをくぐると、負傷者がそこかしこに担ぎ込まれている。
エーリッヒに案内された一室は地図や、様々な書類が置かれていた。
この砦の司令室みたいなところだった。
「公爵閣下。こちらを」
俺はから渡された書類に目を通す。
「死者56人に負傷者108人か……」
この被害を少ないとみるべきか多いとみるべきか……。
「今日はまだ、昼過ぎからの開戦と柵や堀、火薬による時間稼ぎでこの程度に収まっています。ですが明日から本格的な戦いになり、更なる被害の増加が予想されます」
確かに。
明日からは、更なる激戦が予想される。この砦が落ちるまでに別動隊が間に合うかどうか……。
他の報告書にも目を通していく。食料や医療品はそれなりに備蓄していていたのでなんとかなるが、矢や投石の在庫が、想定よりだいぶ消費している。
足りるか?
少し抑えて使う必要があるか。そうなると張り付かれて妨害が厳しくなるだろうが、完全に在庫が無くなってしまうとそれこそ厳しい。牽制ができなくなるからな。
「明日は持ちそうか?」
「……正直、厳しい戦いになると思われます」
エーリッヒは悩みながら発言する。
「……別動隊を待つしかない。元よりそういう作戦だしな」
「えぇ。我々も最善を尽くします」
俺は無理するなよ、と言おうかと思ったが口を噤んだ。
個人的な戦闘の才能もない俺は彼らの力に頼るしかできない。結局、彼らが頑張ってくれないと俺は何も成し遂げられないのに、無理するなよと言うのは筋が通らないように感じた。
……ちょっとネガティブになりすぎたか。
「公爵閣下。私はこんなところで死ぬつもりはありませんよ」
俺は驚いて思わずエーリッヒの顔を凝視する。
「……心を見通す魔法でもあるのか?」
「さて。どうでしょうか?」
レイラといい、エーリッヒといい俺は助けてもらってばかりだな。
だが、情けなさよりも嬉しさが感情の大分部分を占める。
思わず拳を握りしめ、エーリッヒに突き出した。
謎の沈黙が流れる。
この世界にはグータッチの文化がないんだったな……。
頭の上にはてなマークを浮かべるエーリッヒに、どうするか教える
「拳を突き合わせるんだ」
「……どういった意図が?」
仕返しのように俺は笑う。
「さてね。魔法の力で見通してみてくれ」
エーリッヒは観念したかのように笑い、グータッチを交わしてくれた。
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