第39話:軍議
俺は主だった数人の家臣の騎士を集めて執務室にて会議を行っていた。
近頃流れている噂によってやつらは団結を強めているらしい。
大公派の流した噂は確かに彼らに口実を与え、団結を促したが当初彼らが思い描いてた目的とは離れつつあった。
包囲網を形成しようとしていた主導していた貴族は、ヴァイワール伯爵の侵攻に対する防衛協定というのが当初の目的だった。
だが、ヴァイワール伯爵家を悪としたことで、当初の思惑からは大分外れた。当初は協同防衛という面が強かったが、噂の勢いを借りることによって一部の貴族がヴァイワール討つべしという考えが包囲網を形成している貴族間で広がっていった。
その結果当初の目的とは打って変わり、攻撃的な方針に変更せざるを得なかった。
こっちも内政して力を蓄えてから侵攻する計画だった。やつらが防衛協定だからこちらから攻撃しなければ手を出してくることはないと俺も父上も考えていた。
だが情勢が変わった。やつらが侵攻してこなかったら、包囲網の派閥内で一緒に行くって言ったじゃん!ノリ悪ぃなって感じで目的を失うことになるので、やつらは団結のために不本意ながら侵攻せざるを得ない。
この時、当初の目的と方法は入れ替わっていた。
執務室の机の上には、羊皮紙に描かれた公爵領の地図が乗っている。
やつらは物資を集めだしたが、まだ農民兵の徴兵する兆候は見られていないため侵攻はまだ先と言える。だが、侵攻に備えた防衛計画は練っておかねばならない。
時間は無限ではないからな。
「まずこちらから。現在我が領は兵士2500人、伯爵家の農民兵300人。騎士18人。総勢2818人」
地図の上に軍を表す駒が6個置かれる。1個あたり500人前後ということだろう。
「敵側では農民兵を中心に8000人程度で騎士は40人程度を予想しています」
敵側の領土の上に16個の駒がおかれる。
こうやってみると、戦力差がかなりあるな…。
だが、ひとつだけ良かった点がある。
領都を中心にインフラ整備を行ったおかげで、敵の侵攻が予想しやすいということだ。
「敵の侵攻予想地点は…」
これでインフラ整備をしてなかったらいくつかの侵攻パターンを想定しないといけなかったが、大きな道路があるならやつらもそれを利用しようと考えるはずだ。
やつらが、侵攻するとしたら…。
俺は地図の一点を示す。
「東部の都市バーヘン…それの手前にある砦が防衛ラインですか」
エーリッヒも地図の一点を見つめて考え込む。
バーヘンは東の地域の要衝で、整備された道が領都と直接つながっている。ある意味ここを落とせば、領都も目と鼻の先にあることになる。
バーヘンの東には道が二つに分かれており、北東部に向かう一本道と、南東部に向かう道があり、この道は途中で2又に分かれている。
おそらく、ここの3か所の道を通って侵攻し、バーヘンで合流しようとするはずだ。
「戦力差的に勝てないとは申し上げませんが、防御に徹するのが得策かと」
家臣のみんなも難しい顔を浮かべている。
だけどなぁ…折角領内の治安も回復して復興しようとしているのに、ここで防御するだけだと同じ事の繰り返しで東部の治安も復興も成し遂げられない。
「できればここで趨勢を決したいのだが…難しいか?」
「1つだけ提案があります」
みなが難しい顔をするなかクルトだけが覚悟を決めた顔をしていた。
「どういう作戦かな?」
そう聞き返すとクルトは駒を配置しながら説明を始める。
「敵は各個に分散して進撃してきます。その際別動隊で数の少ない敵を撃破します」
「ただでさえ少ない兵力を分けるというのか?」
「えぇ。その通りです」
地図上には砦に駒を3個およそ1500と別働隊を表す駒を3個を北路に配置する。
「敵の主力は南東部から来ると予想されますので北東部の敵およそ1500を撃破し、その間砦は時間稼ぎを行うことになります。その後、敵を撃破した別動隊が敵背後を急襲します」
そう提言したクルトだったが、エーリッヒから反論が入る。
「砦も多少の防衛網強化は行うとしても、おそらく1500で6500の敵を抑え込むのは至難の業だと思いますが」
「えぇ。ですので提言した私がその役目を負います」
「ふむ。悪くないと思いますがアイン様の決定に従うとしようかの」
ヘルベルトの言葉に皆が、こちらを見てくる。
最終決定を任せられた俺としては…。
まず頭の中でシミュレーションを行う。
そもそも、本当にここで決める必要があるのかという点から考える。
ここで撃滅できなければ侵攻が蔓延化して東部の支配力を失うことになる。今までの領内改革が無に帰す可能性もある。強さを証明できなければ、更なる侵攻や、父上は構わないが派閥内の他の貴族が干渉してくる可能性がある。それは避けたい。
となると、決戦しかないか…防御側で砦を利用できる点は優利に働くし、兵士の練度では実際に戦争が始まるまでの訓練できる期間にも影響すると思うが勝ってると思う…。
また火薬という存在を知らないのと、兵数の少なさから慢心してくれる可能性もある。
ここで勝てば、やつらも慎重にならざるを得ず、時間を稼ぐことができる。
そしてこの戦功で領民にも対外的にも強い領主という印象を与えることが出来るか…。
「クルトの案で行こう」
俺は熟考の末、そう決断を下した。
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