第38話:忠誠
新兵の募集は滞りなく行われ、新たに2000人の新兵が募集された。
まぁ案の定、農民の子供や食うに困ったスラムの子供などが集まっている。
最初にいた500人の新兵を5分割し、100人にしてそこに新兵400人を付けることで質の均一化を行った。
俺はそんな彼らの訓練の様子の視察に訪れていた。
先達は、新兵に手を貸しながら訓練に励む。兵士たちは俺に気づくと、敬礼をするので、俺も軽く手を振り返す。
あれ? なんかこんなこと前なかった気がするけど…それに彼らの目がなんか、こう…アイドルを見るような感じの…。
「なぁ爺。兵士たちが俺のことを見ているような気がするんだが…」
隣に立っているヘルベルトに確認を取ると、さも当然のような顔をする。
「あやつらに忠誠心を刷り込ませましたからのう」
「え?」
そんなこと聞いてないし知らなかったんですけど…。
「徴兵する農民兵と違って、あやつらは金も時間もかけておりますぞ。そこで逃げては困るし裏切られても困る。忠誠心を刷り込むのは当然のことじゃ」
あぁ。なるほど。
かけた時間も金も有意義に使うために、彼らに忠誠心を刷り込んだのか…。
でもいつの間に?
そんな疑問を浮かべていると、ヘルベルトは察したように語りだす。
「なにかと昔話をせがまれることも多くての、その話でアイン様のすばらしさを伝えることであやつらの為すべきことを説明し、忠誠心を刷り込みましたぞ」
確かに爺は厳しいが、鍛錬以外ではいいお爺ちゃんなのだ。
だからこそ、身寄りのない彼らはヘルベルトによく懐いていたのは知っていたが、まさかそんなことをしているとは思いもしなかった。
まぁ忠誠心があるのとないのとじゃ、大分違うと思うから助かった。
俺個人としては、宗教を利用し、信頼してもらってから改革などで忠誠心を高めようと思っていたので、予想していなかった。
まぁでも、この世界ならそれが当然だよな。
利用できるなら利用するのは俺も彼らも変わらない。
俺のやりかたは彼らにとって回りくどいのかもしれないが、前世の知識…価値観の違いからなのだろうか。
今考えたって仕方がないな。
そう切り替えた俺は別の質問をヘルベルトに投げかける。
「そういやクルトはどうだ?」
爺は俺の質問に顎の髭を撫でる。
「ふむ。試しに兵たちの指揮もさせてみましたが、さすがはワーレン候の騎士ですな。卒なくこなしておりましたぞ」
「なるほど…あれから、なんかあったか?」
あれからというのは対決の後からだ。
ちょっとした違和感を感じていた俺は、ヘルベルトに観察するようお願いしていた。
まぁ一応スパイの可能性もあったしな。
爺は否定するように首を横に振る。
「特に変わったところは見受けられませんな」
「そうか…」
まぁ何かしら抱えているのかもしれんが、様子を見守るしかないか…。
俺はヘルベルトに後を頼むと告げ、練兵場を後にした。
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