第34話

夜。

空は黒く染まり、薄暗い部屋を数本の蝋燭が照らす。

俺は父上の部屋を訪れていた。


「ほぅ…そんなことが」


狩りでのジーク王子との出来事を包み隠すことなく父上に報告した。

裏切りを疑われたくないしね。


「第5王子か…王太子派でも、結構問題視されているようだな」

「そうなのですか?」


見た感じ性格に難があるようには見えないが…あぁ。五男なのに側室の出であんなにカリスマ性があるのが問題なのか。

父上はワインを一口飲んで説明を始める。


「王太子も扱いに困っているようだな。なまじ強さとカリスマ性がある故手に余るようだ」

「分家に入れるというのも手ではないでしょうか?」


そんなに扱いに困るなら追いやるというのも手もあるように思える。

だが、父上は俺の質問を受けて悪い笑み浮かべる。


「無理だな。王太子は失敗の繰り返しを恐れている」


父上の説明で合点がいった。

大公派も遠くに追いやろうとしたが故、統制から外れ現在の内乱のきっかけになっている。ジーク王子が大公派と同じことをするかもしれないという恐怖に怯えているのだ。

だから目を離すとなにをするか分からないから目の届く範囲においておきたいけど、扱いには困ると…。

王太子も第1王子に継承させると公言してるし、ジーク王子は今後どうするつもりなのだろうか…。


「明日には王都を離れる。今考えてもどうなるかはわからんし関与するメリットも余地も今は感じられない」

「まぁ…そうですね。そう言えば父上。王太子との会談はどうでした?」


そこで父上はグラスのワインを飲み干し、また悪い笑みを浮かべる。


「シルリア地方平定を認めるという旨と包囲網を形成している貴族どもの征伐を黙認するとのことだ」

「対価は求められなかったので?」


王太子からしたら大盤振る舞いだと思うが。


「どうやら王太子は我らとの繋がりを優先したいようだな。というか、シルリア地方平定の認めるといっても事実の追認だ。包囲網の貴族家も王太子からしたら、助ける力がないから黙認したというところだろうな。王太子からしても対価を求めるほどのものでもない」


確かに。

なんかいろいろ言葉遣いから貰ったような気分にさせられたが、実質元から手に入れてるものだし、そっちまで手回らないからお好きなようにって言ってるだけだ。

なんか表現を変えると、印象がかなり違うな。

恩着せがましいというか偉そう…まぁ権威維持のための王家の性なのだろうか。


「と考えると、あまり情勢が変わってないってことですね」

「あぁそうだ。とりあえず最低限の繋がりだけ確保しておくってことだな」

「婚姻同盟の話などなかったのですか?」


もちろん父上が現状ほとんど意味のない婚姻同盟を結ぶはずがないが、王家として力をアピールしたい王太子としては婚姻同盟で影響力を獲得したいはずだ。

俺の質問に父上は苦虫を嚙みつぶしたような表情を浮かべる。


「されたさ。12歳の末の姫をどうかと言われたが、うちは王の血に所縁のあるバルティア公爵家と縁を結んでいるので結構ですと答えたがな」


そう答える父上は、断ってもしつこくお誘いを受けて辟易しているのが表情から見て取れた。


「さて、明日の朝には出発する故、明日に備えて寝ておけ」

「分かりました父上」


俺は父上にお辞儀をしてから退出し、自室へと向かった。

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