第33話

「…なぜ。私なのですか?」


ジーク王子は俺のことを評価してくれているようだが、仲間に引き入れるならば腕もたち影響力のある父上を引き入れたほうがいいはずだ。

俺は確かめるように、ジーク王子に質問を返した。


「アイン殿が他の貴族と違うからだ」


俺ってそんな違うのか?

恐らく、教会から伝わってるのは財産の保護と、税制を下げたり俺の人となり程度のはずだ。


「教会から聞いたが、領民の財産保護だってそうだ。貴族はそんなことしない。反乱の抑制のため税制は下げることはあっても財産を保護することはしない。いざという時は、徴収せねばならないからな」

「ですが、領民たちの信頼を勝ち取らねばこの乱世では生きていけません」

「そう、それだ。アイン殿と他の貴族が違うのは。貴族にとって、領民の信頼などどうでもいいのだよ。反乱さえ起こさなければね」


それはまぁ…確かに。

貴族にとって領民なんてものは、ほっとけば産まれてくるものと思ってる節がある。

農民兵を使い潰す戦争のやり方だってそうだ。

俺が静かに頭の中で、思考を続けてる最中にジーク王子は少し難しい顔をしていた。


「なんと言ったらいいか…。あぁか。アイン殿はが違う」


ジーク王子の発言に、なぜか俺も納得感が得られた。

俺がこの異世界に来て、オーラを操る剣士や魔法などもあったが、異世界だなって実感したのは価値観の差だった。農民に対する考えの違いなど、普段の生活でも小さな違和感を感じていた。


「だからこそ面白い。アイン殿のような人物こそ、この乱世を乗り切る、いや乱世の後も必要な人物だと思えるから誘ったのだ。返事を聞かせてもらえるかな?」


俺は少しばかり逡巡し、長く閉ざしていた口を開く。


「…すいません。私は、その申し出を受けることができません」

「…理由を聞いても?」


ジーク王子と接する上で彼に惹かれていたのは事実だが、彼の誘いを受けたときに頭をよぎったのは領地と家族と家臣のことだった。

どうやら意外と領地に愛着があったらしい。


「家族と、家臣と…そして領地を気に入っているのです」


父上がジーク王子を支持するなら別だが。

まぁ父上は王家は利用価値がある程度にしか考えていない。王家のためになんて思考は鼻からないのだ。

俺も父上の最終目標がどこにあるかは分からないが、王家に再び仕えるという道はないように思える。


「…そうか」


ジーク王子は一言そう呟いた。

焼いていた鳥は既に黒炭になっており、場には長い沈黙が横たわる。

俺は居たたまれなくなり、狩りに誘ってくれたお礼と謝罪を述べ、その場を後にした。





「…振られたな」


一人残されたジーク王子は独り言を呟く。


「引き留めなくてもよろしいのですか?政治的に絡め取るという手もあったと思いますが」


そう進言したのはいつの間にか現れたカーラだった。

ジーク王子は否定するように首を横に振る。


「アイン殿のような人物は、忠誠心を得られて輝くものだ」


ジーク王子はふと空を見上げる。


「それにな…いずれまた会う気がする」



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