第32話:誘い
俺と王子は王都の郊外の森の中にいた。
もちろん。父上に報告した上で、許可を貰ってのことだ。遠巻きにはヴェルナーやヘルベルトと、ジーク王子の護衛達が周囲を固めている。
襲撃は…ないだろうな。王太子派が俺を暗殺などしようものなら、ヴァイワール伯爵との友好関係は終わりだし権威がさらに下がる。
可能性としては大公派ぐらいだが、あちらもあちらで年明けの結束パーティーで忙しいはずだ。年明けの今は雪解けした直後ということもあり、王国内は比較的平和な時期と言える。
それはさておき。
「この鳥はな…肝がうまいんだ」
「意外ですね…ジーク殿が調理までされるとは」
「まぁな。五男で側室の出だからな…こんな乱世では、生き残るすべも身につけなければな。まぁ城に籠っているより、外で遊んでる方が楽しかったってのが本音だが」
狩りに赴いた俺達だったが、狩った数を勝負すると思いきや、狩りそっちの気で調理を始めた。
ちなみに俺は弓の才能もないよ?剣と魔法の才能もないし、一応習ったから多少はできるが、中の下がいいとこだ。
そんなことを考えていると、ジーク王子は「はい」と枝に刺さった鳥の臓物と思わしきモノを差し出す。
生食って大丈夫なのか…カンピロバクターとか。まぁこの世界にカンピロバクターが存在するのか分からないけど。
だが、ジーク王子の厚意を無碍にするのも…。
意を決して俺は一口で食べる。
あれ? 意外とうまい。
血生臭さはあるが、独特の触感とうまみがある。
「おいしいだろこれ?」
「えぇ。とっても」
ジーク王子は解体しながら空を見上げる。
「ちょうどいい時間だし、昼飯にするか」
俺とジーク王子は、焚火を前に丸太の上に腰かけていた。
彼は、さも当然のように太い木を切断して丸太にしたが、そんな芸当なかなかできることではない。
握手した時から感じていたが、彼はそうとうデキる。
「アイン殿は明日帰られるのか?」
「予定では、そうですね」
ジーク王子は一言「そうか」と言い、焚火を眺めている。
「なぁアイン殿。この世をどう思う?」
俺はジーク王子の発言に警戒度を最大まで引き上げる。
まさか、彼からそんな話を吹っ掛けられるとは。
「いや、漠然としていたな。質問を変えよう。なぜこの乱世は収まらないと思う?」
彼はこっちを見ていない。
だが、俺はなんと答えるべきか…逡巡していた。
「…すまない答えにくい質問だったな」
王家の人間相手に王家の後継者問題や王太子が王位に固執しているのが原因だとは言えない。
まぁでもこれもきっかけであって、内乱が収まらない原因はほかにあると思う。
「…私が言えることとしては、この国が出来た時より、いずれ起こる問題だったと考えています」
そこで初めてジーク王子はこちらを向いた。
「それはなぜかな?」
「貴族の特権が原因です。貴族には徴税権と軍権があります。この国は一つの国として見るより、複数の国家の連合と見るのが妥当です。建国当時、王国として纏めるために土着勢力に権力と爵位を与えたのが原因だと思います。当時の情勢下では仕方なかったとは思いますが…」
これは俺が教会から借りてきたオーランド王国の歴史書に書かれていた内容だ。
王国は他国の脅威に晒されていたため、弱小勢力などを一掃するのではなく、彼らに爵位と権力を持たせた。当時の王国では彼らを一つずつ潰すわけにもいかず、王国として纏め上げるにはそれしかなかったのだろう。
「やはりアイン殿はおもしろいな」
「…そうでしょうか?」
ジーク王子の言葉に俺は疑問を投げかける。
ジーク王子は、どこか思い出すように語る。
「貴族はみな、王家の後継者問題が原因だと答えるからだ。だが、この国の歴史が、制度が貴族の特権が問題だと答えたのはアイン殿が初めてだ…やはり、話で聞くより会ってみて良かった」
「…私のことをご存知で?」
端から俺のことを知っていた?
もしかして間諜が? どこから? そんな考えが頭の中をぐるぐると回る。
「いや、勘違いしないでほしいのだが、教会から聞いてな。領民の財産保護など、その人となりを聞いてな」
「…なるほど」
あぁ。そっか。
宗教勢力はこの国全体に根を張っている。冬の間でも、それらの情報が伝達されたというのか…迂闊だったか。
「なぁ…アイン殿…もしよければ俺の下に来ないか?」
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