第31話

俺達が会話で盛り上がっていると、晩餐会も終わりを迎えようとしていた。


「アイン殿、明日の予定は?」

「特にありませんが…」


打ち解けた俺達はお互いのことアイン殿とジーク殿と呼ぶようになっていた。

明日の予定も、父上が王太子と会談するだけで、その場に呼ばれることはない。


「明日。狩りでもどうだ?」


狩りか…。この世界は娯楽に乏しいから、貴族にとって狩りはポピュラーな娯楽の一つであった。


「私でよければ喜んで」

「よし。では、明日の朝迎えの者を送るのでまた明日会おう」


そう言って俺達は分かれた。

握手から話をせざるをえないように誘導されて、主導権を常に握られていた。前世の知識があっても社交界は経験値不足だったな…。


それにしても、王太子の五男か…。

彼は政治的な話も一切せず。久しぶりに他人と他愛もない会話ができた。彼がなぜ人を惹きつけるのか少しわかった気がする。

時代が時代なら良き王になっていたことだろう。いや、平和な時代なら側室の出で五男が王位に就くのは難しいか…。

なんとなく運命のもどかしさを感じる。


王城のメイドに案内され部屋に戻ると、レイラ嬢も戻っていたようだった。


「レイラ嬢。おつかれさま」


そう言って声をかけると、レイラ嬢もこちらを向く。

その顔はどこか疲れているように見受けられた。


「えっと…まぁ。はい…。人が多くて少し疲れました…」


なんだか、その姿は田舎から東京に出てきて人波にもまれて疲れ切った様子でおもしろさがある。まぁ分かるよ最初は俺もそうだったしね。

それはさておき。


「それで、カーラ殿とはどういった話を?」

「会話内容は普通でしたよ?他の令嬢の方も、いらしたのでどこぞの貴族の息子さんがかっこいいとか、愛好している茶葉が手に入らなくなって大変とかですかね…」


女性でも、結構貴族関係のドロドロした会話があるのかと思ったが、いたって普通のようだ。もしくは、そういう会話になるよう気遣ってくれたのかな?カーラ嬢も、クールで思慮深そうな印象だったし。


「アイン様は王子様と、どういったお話を?」


聞き返されることを想定していなかった。

やばい。ジーク王子とは好きな女の子のタイプの話で盛り上がってたけど、それをレイラ嬢に言うのは拙い。

もちろん俺の好みは、レイラ嬢のような銀髪でゆるい雰囲気の美少女が好みだが?

でも、なんだかんだ夫婦という形ではあるが、レイラ嬢に好意を伝えたことがない。

俺がなかなか答えないでいると、不審に思ったのかこちらを凝視してくる。


「アイン様…?」


やめてください。なんか浮気したのかみたいな湿度の高い目でこっちを見ないでください…。


なんとか世間話をしたよということで誤魔化した。


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