第25話:展望

 吐く息に白が掛かる。

 外は雪が降っており、石で出来ているこの城は身を刺すような寒さがある。

 執務室にて、カリカリとペンを走らせてはいるが幸いなことに政務の量は多くない。


 まぁ、この寒さだから領民のほとんどは外出しないので俺の仕事もあまりない。

 することと言えば、今年の収支をつけるくらいだ。

 収入は税を抑えたこともあり、税収はあまりないが金山が稼働したことによる後半での収入増加があった。

 まぁ傭兵団契約とか、新兵募集や金山までのインフラ整備とかでほとんど金は吹き飛んだが、初期投資として考えれば来年以降はそれなりの収入は見込めるんじゃないだろうか?


 来年の計画か…。

 ひとまずは、インフラ整備と領民たちの家の修繕か。修繕までこっちが請け負うとなると、金も時間もかかる。

 いっそのこと、材料だけ支援してあとは自分でやってねってスタイルでいくか?

 材料の横流しとかあり得るか? あぁ、でも大丈夫かも。

 うちの領内では金羊商会に税を免除したことで、彼らによって市場がほぼ独占されている。領内の物流の動きは金羊商会が把握しているから横流しとか流石に気づくんじゃなかろうか。たぶん。


 あとは新兵と騎士の募集かな。

 情勢を踏まえると、包囲網を形成される可能性が高い。ヴァイワール伯爵派閥は西は海だからまだいいが、西を除くほぼすべてが仮想敵だ。うちの公爵家も東の領境に多くの貴族家が存在している。

 現状うちの兵力は、この前募集した新兵500に伯爵家からの支援300と傭兵団100と騎士が数十人。

 とてもじゃないが、この広大な公爵領において1000人にも満たない兵力では厳しいものがある。徴兵すれば1万以上集まるだろうが、それだと志願兵にした意味がないし不満が溜まるだろう。

 父上からの援軍は…期待できないだろうな。何かあればうちに逃げて来いと言われたこともあるし、最初に300程度貸してくれたのも対外戦争用ではなく最低限身の安全のためだ。

 何より敵はうちの領境だけじゃないし、父上は他の相手もしなくてならない。


 そして、父上も言っていたように騎士が足りない。金羊商会の方で放浪している騎士を探させるか。それと同時に新兵も募集するしかない。

 また、少年少女が送られてくるかもしれないが…う~ん。大人をよこせって言ってもそれはやってること徴兵制と変わらないしな。

 2000人ほど募集するか…?前回の規模の4倍だが、幸い兵舎とか余ってるので住む場所は問題ないが、問題は食料と給金と装備だ。

 装備もなぁ。この乱世続きだから値上がりしてるんだよな。


 なんとか金を削減できるところはしたいなぁ。

 唸っていると一つの考えが頭の中に浮かぶ。


 兵士だが、体力錬成も兼ねてインフラ整備などに動員するか。

 そうすればインフラ整備にかかる費用を抑えることができるし、今の新兵はなんとか形になったが、実戦で使えるようにするには時間がかかる。育成の時間は今以上にかかるだろうが、インフラ整備で培った技術は野戦での防御設備の構築などにも役立つはずだ。悪くないな。


 まぁ結局、予定を立てても春先の王太子派パーティーとかで情勢は変わるかもしれないし変更せざるをえない部分も出てくるだろうな…。


 コンコン。


 エーリッヒがドアをノックし、入室する。


「ハイネマン司教が来られました」

「分かった。応接室で面会しよう」


 頭の中の考えも纏まっていたし、ちょうどタイミングが良かった。



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