第24話

俺は本の部屋特有の匂いを嗅ぎながら、この前まで借りていた本を元の場所に戻す。


最初教会に図書室があるのかって驚いたけど、この世界における聖職者たちは知識人であり、中立勢力というのが大きい。

この大陸における宗教はほぼ一色で。アリエスト教というのだが、これがまたちょっと前世の感覚からすると一風変わっている。


彼らは人類賛美を教条としている。そのため、人から産まれた経験や知識を集積する本の保管には積極的なのだ。でも、人類賛美で戦争すらも人の営みだ!とか言ってるやつもいるらしい…。

そして、もう一つがなんというか…それでいいのかって言いたくなるほど変わっている。先ほどの教条のところ以外は基本ゆるいし、地域によっては独自に教義を変えている。


前世の感覚で言えば、プロテスタントや東方正教など独自性があるが、一つの宗教としてゆるくまとまっていると言えばいいのだろうか…。

彼ら自体の仲も悪いわけではなく、地域性による差として受け入れている。

まぁそんだけ緩い教義だからこそ、地域に合わせて変容することで広がったというのもあるのだろう。

でも、まじでなんなんだこの宗教。


まぁそれはさておき。


「気に入った本はあった?」

「えぇ。このグレイフ式魔法術の本を借りようかと」


エーリッヒは、魔法の練度を上げるための本を借りるようだ。

確かグレイフと言えば…魔法の名家として有名なグレイフ侯爵家かな?

長い伝統を持つ名家の本なら間違いはないだろう…たぶん。


俺は歴史書をいくつか手に取り、部屋を出る。


付近にいたシスターに借りていく本を伝え、お礼の言葉を述べて教会を後にする。

扉を出ると、来た時にはすこしばかりちらついていた雪が2cmほど積もっていた。


俺たちはコケないように注意しながら城へと戻った。


城へ戻り、雪を落として暖炉の前の椅子に座る。外は雪が降っていることもあり、薄暗い。

だが、暖炉がパチパチと燃え室内を照らしている。

さきほど借りてきた歴史書を手に取る。


タイトルは『オーランド王国の歴史Ⅱ』と書いてある。俺が今住んでいるこの国の歴史ということだ。すでに前巻は読んでおり続きというわけだ。

なんか異世界の歴史書を読んでいるから、異世界モノのライトノベルを読んでるようでなかなか面白い。まぁ異世界だから当然か。


でも、異世界にいる今となっては日本の物語が異世界ものなのだろうか?

なんてしょうもないことを考えながら、本の一ページを捲った。

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