第21話:手紙
俺は再び、会合が行われていたあの部屋へと戻っていた。
既に幾人かの派閥の騎士や貴族は帰路へと就いており、集まった人数は数を減らしていた。
「突然集まってもらってすまんな。実は先ほど、王家から手紙が届いてな」
父上はそう言って、2通の手紙を皆に見えるように机の中央に投げる。
既に封は切られており、父上が読んでいることが分かる。
「どちらからですか?」
そう質問したのは、派閥の子爵の一人だった。
「王太子派からだ」
現在絶賛内戦中のうちの国では、王位継承権争いが繰り広げられている。
国王が後継者を決めぬまま逝去した結果。
国王の弟である大公派と息子の王太子派で分裂。それが原因で、王国での長きにわたる戦乱の世が始まった。王家と言っても王太子派も大公派もどちらも王家なので、それを確認するための発言と言える。
あ、一応うちのバルティア公爵家も確か王家だったはずだ。起源は王弟だからな。継承権はくっそ低いけど。
さて話は戻って。
「私とバルティア公爵家へと宛てられた手紙だ。内容は年明けの王太子派パーティーへの招待だ」
なぜ俺にも…? あぁ。公爵家にも送ることで爵位というか上位の者に敬意を払えよ?ってことを伝えているのか。
「…バルティア公爵家を乗っ取った伯爵様とアインツィヒ様を誘い出し、討ち取るための罠では?」
騎士の一人がそう提言すると、周りの者も同意するように頷く。
「可能性もなくはないが…違うだろうな」
父上が提言を否定すると、みなが理由を聞きたがり、聞き耳を立てる。
「公爵家を乗っ取ったことを怒るというなら、もっと早い段階で停戦へと向けて仲介したはずだ」
「なるほど」
「確かに」
父上の説明にみなが納得の顔を浮かべる。
まぁそうだよな。なんなら見切りをつけてシルリア地方が統一されるのを王家は期待していたのではないだろうか? 前バルティア公爵家は結構暗君として有名だったし。
「…ですが、そうなると年明けが危ないかもしれません」
「包囲網か…」
「えぇ。伯爵様を招待するのですから安全に通るため王家も周囲の貴族家へと話を通すでしょう。伯爵様不在の中、やつらが攻めてくる可能性も…」
父上も派閥の騎士や貴族もみな、困ったような顔を浮かべる。
「…ひとつ提案があります」
「なんだ? アイン」
俺は提案をしようとすると、周りの皆がこちらを見つめてきた。
強面のおっさんたちばかりだから、さながらヤクザ事務所に連れてこられたみたいでドキドキするが、意を決して話始める。
「ひとつ噂を流しましょう。王家がヴァイワール伯爵のシルリア地方平定を認め、昇爵を行うと」
「…それでやつらを抑え込めるでしょうか?」
そう質問してきたのは貴族の一人だった。
俺は彼一人へ回答するのではなく、皆に聞こえるように話始める。
「包囲網を形成しようとする貴族はそれぞれが小さい貴族家ですが、様々な貴族がおります。旧態依然として王家へ忠誠を誓う貴族家など。彼らの一部は我らの力を恐れているのはありますが、建前として公爵家を乗っ取ったことへの反発です。そこで王家が昇爵を行うという噂を流すことで王家は公爵家の件を許したということになります」
父上は唸りながら口を開く。
「一部のやつらは攻め入る口実を喪うか」
「えぇ。そして、それでも攻め入ろうとすれば王家も敵に回すのではないかとやつらも怯えるでしょう」
奴らの連携を分断するというのは先ほどの婚姻同盟を結ぶという噂を流すのと同じだが、なによりこれは、王家を敵に回すかもしれないという恐怖がある。
やつらはそれぞれが小さい貴族家故、正面にはうちが、背後には王家が。
そうなると彼らは立ち行かなくなる。
「面白い。その案でいこう。なんなら本当に昇爵に働きかけてもよいかもな」
父上も気に入ってくれたようで会合も、方針は決まり閉廷する流れとなった。
良かった緊張した。
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