第20話:地元

 会合も晩餐会も終わり、翌日になった俺たちは領都の街並みを散策していた。


「すいませんアイン様! ちょっと馴染みのやつと会ってきます!」


 ヴェルナーは朝早くから領都の街に繰り出していった。

 ヴェルナーも、スラムだった頃から付き合いのある女の子がいて、今でも交友があるらしい。バルティア公爵領で付きっきりだし、こういう時じゃないと会えないよねってことで許可した。まぁ正確にはいいよって言う前に飛び出していったんだけど…。


 まぁそんなこんなで俺とレイラ嬢と数人の騎士で街を散策することとなった。


「ここがヴァイワール伯爵の領都なのですね」

「あんまり見るところがないですよね?バルティア公爵家の領都と比べると規模も小さいですし」


 まぁ公爵家というだけあってシルリア地方における経済の中心でもあった領都は規模もデカい。


「いえ、人々の顔も明るく活気に満ちているように感じます」

「そう言ってもらえると嬉しいですね」


 二人で会話しながら街中を歩いていると、とある屋台を見つけ思わず走る。


「おじちゃん久しぶり」

「おぉ!? アイン様じゃねぇか! 近頃見ねぇって思ったけど、元気にしとったんか?」

「うん。その様子だとおじちゃんもくたばるにはまだまだかかりそうだね」

「がははは!まだまだこれからよ! そうだ!いつもの食ってけ!」


 俺はおじちゃんから昔からよく食べていた魚の切り身をパンと野菜で挟んだサンドイッチみたいなものを1個受け取る。


「ごめんもう1個貰ってもいい? 金は払うから」


 俺はちらりと少し離れたレイラ嬢へと視線を送る。それを見たおじちゃんは察したようだった。


「おぉ! とうとうあのアイン様にも恋人ができたってことかい! そりゃめでたい。ほら、もってけ! 金もいらねぇよ!」

「ありがとうおじちゃん。また今度いっぱい買いに来るよ」

「あいよ!」


 俺はサンドイッチをもう1個受け取る。

 おじちゃんと別れて少し離れていたレイラ嬢の下へと戻る。


「すいません。レイラ嬢つい懐かしさから走ってしまいました」

「いえ。お構いなく、それにしても領民の方々と仲がよろしいのですね。少し…羨ましいです」

「まぁ公私は分けますが、性分的にもこのぐらいの方が接しやすいですから」


 まぁバルティア公爵家としての立ち振る舞いが求められれば、それに応じるが。こういう関西人のおっちゃんを相手にするときは、なんか前世の影響かな。


「そうだ。これ」


 俺は先ほど受け取ったサンドイッチの2つのうち1つをレイラ嬢に差し出す。


「ここの名物のよくわからない魚の切り身のサンドイッチです」

「生の魚って珍しいですね」

「ここは海と近いほうですから、ギリギリですけど生の魚も届くんですよ」


 バルティア公爵領の領都で過ごしている際に生の魚は出てきたことがない。おそらく運ぶまでに腐ってしまうのだろう。

 俺が一口食べると、レイラ嬢も小さな口でぱくりとかじる。


「おいしい…!」

「でしょ?」

「はい。ソースの酸味もほどよく、ソース自体もパンが吸っていて食べやすいです。魚独特のうまみが…」


 レイラ嬢がおいしいと思ってくれているのはシンプルにうれしいが、最近なんかこう…食いしん坊なキャラになってきてる気がする。

 …餌付けした俺のせいか?

 まぁでも、心を閉じていたあの頃よりかは100倍マシだ。


 俺たちが緩やかな時を過ごしていると一人の騎士が近寄ってきた。


「ヴァイワール伯爵様がお呼びです」

「…すぐに向かう」


 こうして俺たちのささやかなデートは終わりを迎えた。

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