第19話:家族
「さて皆集まったようだな」
別室に集まったのは父上とヨゼフ兄上、ルメール兄上と俺だ。一族の身内しかこの場にはおらず、派閥の貴族や騎士はおろか、メイドすらも存在しなかった。
「久しいなぁ~アイン!」
そう言って俺の肩に手を回してきたのはヨゼフ兄上だ。さっきの会合では真面目に取り繕っていたが、明るくはっちゃけた性格をしている。
こう見えてもうすぐオーラソードの使い手になるのではないかと言われるほど、剣の高手である。
「ヨゼフ兄上。重いです」
俺がそう言って手を払いのけると、「俺も少し太ったかな」と笑っていた。兄上の場合は、筋肉が増えただけだと思いますけどね。
父上がごほんと咳払いをする。
俺たちは急かされるように席に座る。
「うむ。みなご苦労だった」
そう言って父上は俺たちを労い、部屋の隅に置かれていたワインとグラスを持ってきた。父上は俺たちそれぞれにグラスにワインを注ぎ、4つの杯がワインで満る。
「伯爵家に栄光あれ」
「「「伯爵家に栄光あれ」」」
父上に続いて、俺たちも合唱しワインを飲み干す。
あれ?気にしてなかったけどこれ相当いいワインだぞ…。それこそこの戦乱の世ではなかなか手に入らないレベルの一品だ。
「良い酒だろう? ノルデン子爵領の32年モノだ」
この戦乱の世では農地が破壊されたり、よくあることだ。ここ最近ノルデン子爵領のワインも有名だったが出回ってる話は聞かなかった。
「公爵家の財物庫から拝借してきた」
父上はいつもの悪い笑みを浮かべた。
あぁ…なるほど。うちの財物庫何もないと思ってたけどそこにあったのね…。
「さて…まずヨゼフ。人手が足りぬこともあり、次期当主としてこれからも頼むぞ」
「おぅ!」
「ルメール…まぁ、仕事をこなすならあとは好きにせよ」
「えぇ。お任せください父上」
好きにせよっていうか丸投げするのってもしかして癖ですか?父上。
まぁルメール兄上は自由人だからな…。
「そしてアインよ。いろいろ報告は聞いているがよくやっているようだな」
「はい。若輩なりに努力しています」
まぁ俺自身も報告書上げているし、爺あたりが報告書を出していたりするかもしれない。まぁ父上としては爺の目からみた俺の客観的な評価をしたいだろうし…。
「なんでも三圃制というのを始めたらしいな?」
「まぁ一部だけですが…」
父上が興味持っているらしく、俺は改めて三圃制の概要を説明した。
「ふむ…なるほど。うちでも導入するかは結果を見てからとしよう。定期的に報告するように」
「はい父上」
なんかお偉いがたにプレゼンするような気持ちだったな…前世でもしたことないけど。
「なぁアイン。農民兵を訓練させているらしいがどうだ?」
「え? あ、まぁ順調…ですよ?」
まぁ農民兵と言われたら農民出身の兵士が多いのだが…。
伯爵家で農民兵を訓練させることなんてあんまりないしな。建物の警備とか領内の巡回。領内の労働作業に従事させたりしている。まぁ彼らもずっと兵士ってわけではなく、税を治められないとかで労役についてるだけで本職は農民だ。
「先日も、爺の一撃を盾で一度ですが防ぎましたよ」
「ほぅ!」
「なら、今度私も試してみるかな」
「父上の一撃はみな死にます勘弁してください」
俺が普段したアレコレを根ほり葉ほり聞かれる。ルメール兄上にはアイスの件とかね。
なんかこういう家族水入らずで会話するときだけは今が戦乱の世ということを忘れさせてくれた。
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