第17話

俺たちは会合を行う大広間の扉の前まで来ていた。


「バルティア公爵夫妻到着いたしました」


扉の前で控えていた騎士がそう声を上げると、扉を開き、中へと通される。

大広間には長机に寄り子の貴族や側近の騎士などがずらりと並んでおり、長机の最奥には父上が鎮座していた。

彼らは、みな言葉を発さずじっとこちらを凝視している…。いや、正確にはレイラ嬢を凝視している。俺は彼女を庇うように一歩前にでて背中に彼女を隠す。


「お招きいただきありがとうございますヴァイワール伯爵様」


嫌なほどの沈黙を切り裂いて、俺が口上を述べると、父上は頷き口を開く。


「うむ。よく来てくれたバルティア公爵。レイラ嬢もな」


父上はそう言って俺の後ろにいるレイラ嬢を見据える。

彼女も斜め前に一歩出て、華麗なお辞儀をする。


「お久しぶりでございますヴァイワール伯爵様」

「うむ。お元気そうでなによりだ」

「はい。これもヴァイワール伯爵様の配慮のおかげでございます」


この会合に参加している貴族や騎士はみな戦場を経験してきた猛者たちだ。そんな彼らの視線を一身に受けても、彼女は毅然としていた。


「うむ。長旅で疲れたことだろう。部屋で休まれるといい」


父上はそう言って、メイドの一人に指示を出すと、レイラ嬢はメイドの案内で部屋を退出した。俺もそれに付いて行こうかなと思ったが…。


「アインはこっちだよ」


ルメール兄上に捕まってしまった。

この会合にいるメンバーみんな顔が怖いからちょっと苦手なんだよなぁ…。


「さて、揃ったことだし今年の会合を始めるとしよう」


俺も長机の端の方で椅子に座る。


「まず無事シルリア地方に平穏をもたらすことができた。これもみなの尽力あってのものだ。祝おう」


父上がそう言うと、メイドなどが入室し全員にお酒を配る。

会合で話し合う場なので祝いではあるが度数の控えたものを使用しているみたいで、あんまり得意ではない俺でも飲みやすかった。


「さて、それではまずは情勢の方から話をしようかと思う。ヨゼフ」


父上は、そう言って父上のすぐ隣に座る男に目配せする。

彼はヴァイワール伯爵家の嫡子にして俺の兄上の一人。ヨゼフ兄上だ。

伯爵家を継ぐ者としてあちこちで奔走してるらしく、なかなか会うことがない。


「まずは近隣から。周辺の貴族家は軍事行動を起こす素振りは見られないが、どうも頻繁に連絡を取り合ってるみたいだ」


そうヨゼフ兄上が報告するとみな難しい顔をしている。

反ヴァイワール伯爵包囲網か…。大きな戦いが終わった後で、疲弊している現状であまり多くの敵を抱えたくない。それは皆の共通認識だ。


「…遠くの情勢でなにか報告すべきあったか?」


父上がそう言うと、ヨゼフ兄上は頷き、別の紙を手に取り報告を始める。


「北方では戦士長を選出する儀式が始まったらしい」


北方の戦士長か…グスタフ戦士団を率いる者を決めるという事は本格的にこの乱世に介入してくるということなのか。グスタフ戦士団の武勇は吟遊詩人や昔話にも語り継がれるほどなので、みな警戒の色を浮かべる。


「次は東方についてだが、ワーレン侯爵家が滅亡した」


その報告を聞いたみなが口々に「なんと!」「あのワーレン侯爵家が」「一体どこの勢力が」などと騒ぐ。

ワーレン侯爵家は東方でも随一の武の名家として知られ、北にグスタフあれば東にワーレンありと言われるほど王国でも名の知れた名家だったのだが。


「内部騒動と、それにかこつけてボルドー子爵家が攻め入ったことで滅亡した。東方では大きいのはこれくらいで、南方では小さい貴族家がなんか滅亡した程度だ。王都方面は相変わらず小競り合い程度だな」


みながそれぞれ付近のものと、思い思いの考えを述べる。

かつての名家も滅びる。ワーレン侯爵家もバルティア公爵家も名家だったが滅びた。


「栄枯盛衰か…」


俺の呟きは誰にも聞かれないはずだった。


「栄枯盛衰。その通りだな」


父上に聞こえてたみたいです。聴覚も化け物かよ。


「乱世は未だ収まらぬ…名家は滅び、我らやボルドー子爵家のような新参者が台頭する。みなも情勢に気を配らねばならん」


そう父上が言うと、みなが「はっ!」と言い頭を下げた。

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