第13話:害虫駆除

 新兵の訓練や政務などを処理する日々を過ごしていたある日一つの報告が寄せられた。


「残党が集結している?」


 俺がそう聞き返すとエーリッヒも深刻そうな顔で頷く。

 兵士を募集しているのは残党も知るところであり、リスクが高まったことで一部の残党は領外へと逃亡した。それ以降少し鳴りを潜めていた残党ではあるが、ここ最近被害地域が一極化しつつあり、残党が集結しつつあるようだ。

 実際地図を見て、被害に遭った地域を確認すると出没地域に偏りがあるのが見て取れた。


「どうされますか? ヴェルナーもヘルベルト殿も手が出せないと息巻いております」

「う~ん」


 俺は頭の中で思考を巡らす。

 そもそもやつらの集結の目的はなんだ? 俺の命だろうか? いや、それはないな。


 やつらが野盗まがいのことをしているのもかつてのバルティア公爵家に忠義あってのものではない。そもそも忠義があったら、先の戦で身をもって忠誠を示すはずだ。

 となると……金か。金を確保してどこか高跳びするつもりかもしれん。

 金となると、金山か。


「よし。ここでやつらを一網打尽としよう」

「公爵閣下。さすがに新兵はまだ実戦には出せるレベルではありません」

「さすがに彼らはまだ出せんな。でも安心してくれ。我に策ありだ」


 そう微笑むとエーリッヒは胡散臭い占い師を見たような顔をする。

 やめろよ。一応主君だぞ。



 後日俺たちは道沿いの茂みの中に身を隠していた。

 木々が鬱蒼としており、腰の高さほどある茂みが俺たちのことをうまく隠していた。茂みには道を挟むように2隊が伏せてある。

 道の真ん中には、ゆっくりしたペースで数台の馬車と護衛の兵士が輸送団を形成している。

 茂みに身を隠していると、近くにエーリッヒが音を立てないように慎重に近寄ってくる。


「公爵閣下。やつらが現れました」

「分かった手筈通りに頼む。ヴェルナーにくれぐれも先走るなと伝えておけ」

「はっ!」


 ふと道の先に目をやる。目線の先には、輸送団の進路を阻む武装集団が居座っていた。

 俺はここ最近一つの噂を流していた。金山から得られた金を伯爵家に献上するため馬車3台で輸送すると。

 金山で待ち構えると傭兵団と伯爵家から借りた300人余りを相手にやつらが来ない可能性も考慮して餌を垂らしたわけだ。


 やつらはまんまとその噂を信じて、こうして襲撃してきた。

 残党どもは陣形を維持することなく、こちらの輸送隊に向かって駆けだす。それに合わせて輸送隊を護衛していたものたちも慌てるように逃げだした。

 輸送隊の護衛人数は20人程度だし、敵は100人ほどで半分近くが騎士だったものたちだ。勝負にならない。


 やつらは護衛していたものたちを追うことはなく、馬車を取り囲み物色を始める。

 周辺を警戒する様子はなく、馬車に乗り上げていく。


「エーリッヒ。今だ」


 エーリッヒは小さく頷く。エーリッヒは目を閉じ集中したかと思うと、掌を馬車の方に向ける。そのとき小さな火の玉を生み出され、馬車に向けて飛翔する。

 火の玉は馬車に着弾すると、大爆発を起こす。他の馬車もそれに煽りを受けて、2度大きな爆発音が響く。辺り一面を砂塵が舞う。

 この大爆発はエーリッヒの魔法が凄かったわけではなく、馬車の積み荷が火薬だったというだけだ。


 この世界に来た当初、やっぱ異世界って言えば火薬で無双でしょ! って思ってました。でも、魔法が火薬の上位互換すぎたんだよね。

 火薬だって作るのタダじゃないし、疲労と引き換えに発動できる魔法が強すぎた。

 一応それでも、簡単な火縄銃みたいなものも作ってはみたんだけど……。

 斬ったんだよね……弾を。

 父上だけじゃなく、ヘルベルトとかヴェルナーも弾を切った。騎士ってやっぱ人間じゃねーよ。まぁそれでも少しずつではあるが俺の趣味の範囲ということで火薬を細々と作らせ続けたものがアレだ。まぁもうほとんど在庫ないけど……。


 とまぁ。そんなことを考えている間に砂塵は晴れて、視界が通る。

 ほとんどは地に伏しているが、何人か負傷しているだろうが辛うじて立っている。

 あの爆発で死んでないとかやっぱ人間じゃないわ。


 俺はエーリッヒたちに目線で合図を送り指示を出す。


「殲滅しろ!」


 道を挟んだ両脇から兵士が飛び出し、満身創痍の敵の騎士を打ち倒す。

 いくら騎士が強いと言っても満身創痍かつ数の暴力には厳しいものがある。

 敵の元騎士というべき害虫はさしたる抵抗もできず、みるみる数を減らしていく。

 かくして散々俺の頭を悩ましていた害虫は一網打尽となった。



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