第13話

新兵の訓練や政務などを処理する日々を過ごしていたある日一つの報告が寄せられた。


「残党が集結している?」


俺がそう聞き返すとエーリッヒも深刻そうな顔で頷く。

兵士を募集しているのは残党も知るところであり、リスクが高まったことで一部の残党は領外へと逃亡した。それ以降少しなりを潜めていた残党ではあるが、ここ最近被害地域が一極化しつつあり、残党が集結しつつあるようだ。


「どうされますか?ヴェルナーもヘルベルト殿も手が出せないと息巻いております」

「う~ん」


俺は頭の中で思考を巡らす。

そもそもやつらの集結の目的はなんだ?俺の命だろうか?いや、それはないな。


やつらが野盗まがいのことをしているのもかつてのバルティア公爵家に忠義あってのものではない。そもそも忠義があったら、先の戦で身をもって忠誠を示すはずだ。

となると…金か。金を確保してどこか高跳びするつもりかもしれん。


「よし。ここでやつらを一網打尽としよう」

「公爵閣下。さすがに新兵はまだ実戦には出せるレベルではありません」

「さすがに彼らはまだ出せんな。でも安心してくれ我に策ありだ」


そう微笑むとエーリッヒは胡散臭い占い師を見たような顔をする。

やめろよ。一応主君だぞ。



後日俺たちは道沿いの茂みの中に身を隠していた。


「公爵閣下。やつらが現れました」

「分かった手筈通りに頼む。ヴェルナーにくれぐれも先走るなと伝えておけ」

「はっ!」


俺たちの目線の先には、輸送団の進路を阻む武装集団が居座っていた。

俺はここ最近一つの噂を流していた。金山から得られた金を伯爵家に献上するため馬車3台で輸送すると。

金山で待ち構えると傭兵団と伯爵家から借りた300人余りを相手にやつらが来ない可能性も考慮して餌を垂らしたわけだ。


やつらはまんまとその噂を信じて、こうして襲撃してきた。

残党どもは陣形を維持することなく、こちらの輸送隊に向かって駆けだす。それに合わせて輸送隊を護衛していたものたちも慌てるように逃げだした。

輸送隊の護衛人数は20人程度だし、敵は100人ほどで半分近くが騎士だったものたちだ。勝負にならない。


やつらは護衛していたものたちを追うことはなく、馬車を取り囲み物色を始める。


「エーリッヒ。今だ」


エーリッヒは小さく頷くと、小さな火の玉を生み出し、馬車に向けて放った。

火の玉は馬車に着弾すると、大爆発を起こし、辺り一面を爆発音が駆け抜け砂塵が舞う。

この大爆発もエーリッヒの魔法が凄かったわけではなく、馬車の積み荷が火薬だったというだけだ。


この世界に来た当初、やっぱ異世界って言えば火薬で無双でしょ!って思ってました。でも、魔法が火薬の上位互換すぎたんだよね。

火薬だって作るのタダじゃないし、疲労と引き換えに発動できる魔法が強すぎた。

一応それでも、簡単な火縄銃みたいなものも作ってはみたんだけど…斬ったんだよね…弾を。

父上だけじゃなく、ヘルベルトとかヴェルナーも弾を切った。騎士ってやっぱ人間じゃねーよ。まぁそれでも少しずつではあるが俺の趣味の範囲ということで細々と作らせ続けたものがアレだ。まぁもうほとんど在庫ないけど…。


とまぁ。そんなことを考えている間に砂塵は晴れて、視界が通る。

ほとんどは地に伏しているが、何人か負傷しているだろうが立っている。

あの爆発で死んでないとかやっぱ人間じゃないわ。


俺はエーリッヒに目線で合図を送り指示を出す。


「殲滅しろ」


かくして大した抵抗もなく、散々俺の頭を悩ましていた害虫は一網打尽となった。



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