第12話:志願兵
七六二年七月
時は少し進み、風はどこか寒さを覚える。大地は黄金色に染まり、麦の収穫を迎えた。
俺は執務室で報告書に目を通す。そこには商会からの税として回収した小麦の量が記載されていた。
税の割合を抑えてはいたが、それでも約束通りの金貨500枚分の麦を回収することに成功した。ひとまず、金羊商会から借りた500枚の借金は無くなったわけだ。
税の徴収の傍ら、三圃制と導入を一部の村で進めていた。
三圃制とは、農地を三分割し春、秋、休耕地と繰り返すことで土壌の栄養の流出を防ぐ方法だ。
そして三圃制を導入するにあたって、村には協力してもらう対価として馬を貸し出した。この時代の馬は、軍需物資であり極めて重要なもので市場に出回るものも多くない。公爵家領内にも馬の牧場があり、それは戦火を免れる形で存続していた。一部の余った馬などを無償で貸し出したというわけだ。
三圃制の導入を一部しか行っていない理由は、この世界は前世と違う。前世の知識がすべて成功するという保証はない。
オーラを操る剣士や魔法が存在する。表面上は同じ人間に見えても全く別の生物という可能性もある。まぁ獣人とかもいるしね……。まぁ三圃制の導入など理解が得られないことも貴族の権力で多少のゴリ押しは効くから役得と言える。
というわけで、領内の状況は少しずつ回復していく兆しが見えている。
問題は治安……というわけだ。
傭兵団を雇ったが、彼らはあくまで金山の防衛であって領内の残党や道路の巡回などは行っていない。時間をかけていくことになると思うが、領内から志願兵を集めることになった。
まぁ金山や人頭税など多少の収入はあるが、いきなり多くを雇うのは厳しかったので500人ほどだが。これでも公爵家の広大な領地からすると明らかに足りない。
そして今日各地から志願兵が集まってきたらしいのだが……。
「どうしてこうなった……」
俺は訓練場の少し高い立ちに登り、並ぶ彼らを見渡す。
集まった志願兵は大人もいるが、ほとんどは俺と同じ年かそれよりも若かった。彼らの顔には不安の表情が見て取れた。
この場にいる500人のほとんどが少年少女で構成されていた。
俺のボヤキが聞こえたのか、彼らを任せることになっているエーリッヒが近くに寄って来る。
「公爵閣下。私も理由を調べたのですが…」
エーリッヒが言うには、志願兵というシステムがイマイチ領民に理解されなかったようだ。
今までは必要な分を徴兵していたが、彼ら自身が戦をしたいわけではなかった。戦争なんて基本貴族の都合でしかないからね。
そこで志願兵として戦いたいやつ集まれ~! と言ったところで彼らは困惑したのだ。今までのように有無を言わさず徴兵されるわけではないけど兵を集めている。兵を出さなくて領主の恨みを買うのは怖い。そこで悩んだ人々が出した結論が、ならば先の戦で親を亡くした身寄りのない子供たちを中心に兵を出せばいい。という事らしい。
「さすがに戦うには若すぎる気が……」
俺が困惑しているとエーリッヒも同じ気持ちのようで溜息を吐いた。
「ですが、彼らを村に返すわけにもいきません。彼らのほとんどは村で追いだされたようなものですから」
エーリッヒも残念そうに思っているのが見て取れる。
致し方なしか……まぁ大きくなるまで時間が必要でその分訓練を施せると考えればよかったと思うべきか。
「彼らを指定の兵舎に案内し、以後彼らの訓練はエーリッヒに任せる。例の計画通りに頼む」
「はっ! お任せを公爵閣下」
彼らの教育は基本的にエーリッヒに任せているが、訓練の内容は俺が一部考えたものだ。騎士は基本的に武を磨くが、騎士ではない彼らにそれを求めてはいない。
俺が求めたのは集団行動である。行進とか回れ右とかそういったものだ。とりあえず強さは置いておいて彼らを一つの集団として指揮をしやすいものを目指す。
そしてそれが形になれば、戦闘訓練などを行おうというのが俺たちの計画だ。
メイドの一人が傍に寄ってきて頭を垂れる。
「公爵様。金羊商会が面会を求めております」
「わかった。今行く」
俺は新兵500人とエーリッヒを尻目にその場を後にした。
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