第11話

あれから暫くたった後。俺は一人の男と会っていた。


「警護ですか…こういってはなんですが公爵様の兵でいいのでは?」


頭を輝かせる男は金羊商会の伝手で紹介してもらったグレゴリー傭兵団の団長だった。

金山警備のために兵が必要だが、うちでは300人と騎士数十人程度なので、前から構想していた志願兵でも集めようかと思ったが、訓練する時間も準備も足りないので、傭兵団を雇うことになった。


「我が領は兵が足りなくてな」

「ふむ…それにしても値段が少し安い気がしますが」


そう言って値段を交渉しようとするグレゴリーに俺は余裕の態度を取る。

この場の主導権を握ってるのは俺だ。


「傭兵ともなると、戦でしか稼ぐすべがないが今回は長期の依頼だ。ある程度安定して収入が入ってくるのは、傭兵団としてありがたいのではないかな?」


結局傭兵も戦がなければ武装したごろつきでしかない。そう言った面で長期収入が得られる仕事は得難いものだ。


「そうですな…では、敵はどの程度を想定しておられますか?」


傭兵団として敵の想定を聞いてくるという事は依頼を受けることに前向きだということが分かる。


「主に野盗や、敗残兵の騎士。可能性として…他家の軍も想定している」


他家の軍と聞いたことでグレゴリーは難しそうな表情を浮かべる。


「前者はまだしも、軍は手に余りますな」

「軍が来た時に限っては撤退して良い」


そう伝えると、グレゴリーの表情は安堵していた。

まぁ噂を流しているし、ヴァイワール伯爵も目にかけている金山ということで、そこらの弱小貴族は恐れてこないだろうし、それでも来るならヴァイワール伯爵とタイマン張れるくらいの有力貴族家になってくる。

有力貴族家が来た段階で、どう逆立ちしたって勝てないから犠牲を抑えて撤退するしかない。


無事グレゴリー傭兵団と契約を締結できた。金山も稼働を始めたばかりで収入はまだないが、警備は必要なので俺が伯爵家時代に貯めていた金を引き出して払った。金山が本格稼働すればマシになるだろうが、本家からの支援があるとはいえ、ポケットマネーで解決することが何回かあったので、俺の財布はだいぶ軽くなってきていた。

俺はお茶でも飲んで一息吐こうとしたが、エーリッヒが入室してきた。


「公爵閣下。お仕事でございます」


…もう少しだけ休憩させてくれませんかね?

結局金山からのインフラ整備や、諸々の事務的作業を終えると、日はもう沈んでいた。


やっと一息吐けると思っているとドアがノックされた。

またか…。と思っていると入ってきたのはレイラ嬢だった。


「お忙しいご様子だったので、軽食をお持ちしました」

「ありがとうレイラ嬢」


俺はレイラ嬢が持ってきてくれた軽食で軽く腹を満たす。

レイラ嬢は、何か気になることがあるのかソワソワしている。

レイラ嬢のソワソワしている様子を見るのは中々おもしろいが、いつまでも放置してはかわいそうだと思い、助け船を出す。


「どうかされました?」


俺がそう問いかけると、彼女はピタリと動きを止め、こちらの瞳をまっすぐ見つめてきた。


「実は公爵様にお聞きしたいことがあります」

「俺でよければ、いくらでも」


俺は近くにいた騎士に椅子を持ってくるようジェスチャーを送り、レイラ嬢が椅子に座った後、騎士には席を外すようお願いした。


「…公爵様はなぜ皆に優しいのですか?」

「別に優しいわけじゃないと思いますが…」


俺って優しいのか?日本人が親切とか言われるアレみたいな感じで、そういう価値観が俺に染み付いてるのかもしれないけど。


「いえ、公爵様にはミミやメイド長も感謝していますし、領民も食料支援を行い感謝していると聞きます。なにより敵方の私にも配慮してくださっています」

「俺が優しいって思われるなら、それは俺が弱いからですね」


レイラ嬢は頭に疑問マークを浮かべる。


「俺には剣も魔法も才はありません。俺は自分の身を自分で守れない、だからこそ彼らに配慮するんです。家臣の心を引き留めるよう、領民たちには反乱を起こさないように」


結局この乱世の世では、力は正義だ。だが、爵位という肩書きしかない俺に唯一あった武器がコレしかなかったという話なのだ。


「では、公爵様は剣も魔法も才があれば、傲慢になり、違う形になった思いますか?」

「それは…今と変わらないと思います」


それは変わらない。俺に剣も魔法もあったとしても、武力も手段であって俺という人間の本質ではないからだ。

レイラ嬢はニコリと笑った。


「やはり公爵様は優しいのだと思います」


なんかこう褒められると恥ずかしいな。爺がいたら優しさだけではいけませんぞと小言を言いそうだが。


「…それではお忙しいところありがとうございます。


レイラ嬢は最後にそう微笑んで、去っていた。

俺は一人残された執務室で胸の高鳴りを感じていた。

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