第10話:金山

 急ぎ領都に戻った俺たちは、家臣や金羊商会を駆使して砂金の出処を探った。

 その結果は……。


「まさか、付近の山が金鉱だったとはね……今迄、誰も気づかなかったのか?」


 砂金は川を辿り、付近の山から流れ着いたものだった。

 だが、目に見える形でなかなかの金が存在しているのに、誰にも知られていないのは不思議なことだった。


「それが、前のバルティア公爵家とヴァイワール伯爵家の戦闘の際に、外れていった魔法による爆発で鉱脈が露出したようでして」


 ここ最近の出来事で、領内の有様から行商人などは金羊商会ぐらいなものであまり人通りも多くなく誰も気づかなかったということか。


「でもアイン様良かったじゃないすか。これで金の問題は解決できるすよ」

「いや……そうでもないと思う」


 俺が深刻そうに答えるとヴェルナーはなんで? という顔をする。

 金が出たラッキー! って問題ではないのだ。


「そもそも、父上に報告しなくてはならないし、そうなった場合金鉱は伯爵家預かりの可能性がある。そして、金鉱は他家に狙われる可能性が高いが、うちの軍備の有様ではな……」


 最悪ハイリスクノーリターンの可能性が全然ある。

 いっそ父上に報告しないって手もあるか? 情報封鎖を徹底して父上にも敵にもバラさない……。いや無理だな。家臣はできても金鉱で働く全員を口留めするのは不可能だ。

 そして、もし父上にばれたら反逆を疑われること間違いない。


「父上に使者を出してくれ」

「畏まりました」


 エーリッヒは恭しく部屋を退出した。

 もうなるようになれといった所だ。



 それから数日後。父上から返事の手紙が届いた。

 そこには一言だけ「好きにせよ」と。

 えぇ……。持て余し気味だから相談したかったんだが。

 これは試されているのか……?


「どうされますか?」

「う~ん。とりあえずヤコブ殿を呼んでくれ」


 程なくして金羊商会のヤコブが到着し、応接間に通す。


「忙しいと思うがよく来てくれた」

「いえいえ。公爵様のお呼びとあらばいつ何時でも」


 挨拶をほどほどにし、俺は本題を切り出す。


「金山の件だがな、ヴァイワール伯爵は好きにしても良いと」

「……なるほど。そうなりましたか。金山の扱いにお困りということですな」

「正直そうだな。でも、ヤコブ殿は金山を借金の返済に寄越せというかと思っていたが」


 そういうとヤコブは少し気味の悪い笑みを浮かべる。


「借金を返してもらうより公爵様にツケておいた方が利になると思いましたので」


 ヤコブの商人としての才覚は間違っていないように感じる。実際金羊商会に与えた税の免除は借金返済の代わりなのだ。借金がなくなってしまえば税の免除の恩恵も得られなくなる。現在の領内の有様ではメリットなんて微々たるものだが、将来公爵領が復興したら税の免除は大きなメリットとなる。ある意味投資のようなものだ。


「なるほど。ならば、金羊商会に頼みがある」

「なんなりとお申し付けください」


 ヤコブは胸に手を当て軽くお辞儀をした。


「ひとまず、金山を稼働する上での技術者の確保だな。所有はあくまで公爵家で、金山の経営権は任せよう。そして取り分だが……そっちが4でこっちが6でどうだろう?」


 自分のとこで全部できれば10割だが、人手も足りない現状では商会を使うほかないのが実情だ。

 だが、4割というのは金山を運営できるように技術者や設備の確保など考えると将来的には元が取れるだろうが、ヤコブは難しそうな顔をしている。


「う~む4割ですか……」


 難色を示すヤコブ。


「6割としたが、収入を用いて領内の道の整備と兵を集めようと思っている。その際の設備や資材などの諸々は金羊商会に依頼しようかと。そして利益の配分は当初はこれでいくが、5年ごとに見直し交渉を行うということでどうだろう?」

「なるほど。そういうことですか。それならば、喜んで引き受けましょう」


 結局、うちでは金羊商会ぐらいしか頼れる商会がいない。

 たぶんこういうのって癒着って言うんだろうなぁ…実際する側になるとは思ってもみなかったが、貴族とはそういうものなのかもしれん。


「では、私はこれにて」

「あぁそうだ。もう一つ頼みがある」


 席を立ちあがり出て行こうとするヤコブを引き留めて、俺は悪い笑みを浮かべる。


「金山が稼働するようになったら一つ噂を流してほしい。ヴァイワール伯爵は金山を重要視しており道の整備や兵を集めだしたとな」

「なるほど……畏まりました。ではこれにて」

「あぁ。よろしく頼む」


 実際に道の整備や兵は集めようと思っているが、それをするのはヴァイワール伯爵の意向という噂を流しておけば、伯爵の金山というイメージを持ち邪な奴らは躊躇するかもしれない。

 どうせ人の口には戸が立てられないなら、あえて曝け出して牽制するのも手だ。


 俺はとりあえずこれでひと段落したと思い、メイドの一人にお茶を入れてもらい一息つく。


 窓の外を眺めながら、溜息を吐く。

 前世の知識とかでハーレムのんびりライフ送りたかったんだがなぁ…

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