第9話
七六二年六月
俺たちは公爵領の領都から程近い場所を散策していた。
長閑な平原が広がっており、道を少し離れた場所には小川が流れている。遠くを見渡せば道に沿う形で村が点在していた。
金羊商会からの情報だけでなく俺も実際にこの目で確認しておきたいという理由だ。
でも、もう一つ理由がある。
「レイラ嬢疲れてはいませんか?」
「まだ大丈夫です」
レイラ嬢の気分転換も兼ねて、彼女を外に連れ出していた。彼女は城から出ることはあまりなく、息が詰まるだろうと思ってのことだ。
もちろん外に連れ出すのは本家の意向から好ましくない。だが俺が散策する時にも護衛は必要だし、城にいるレイラ嬢の護衛も必要だ。
ならば一緒にいれば警備の問題クリアできるやん!って話だ。
レイラ嬢は物珍しそうあちこちを眺めている。
「あまりこの辺は来られないので?」
「そうですね…そもそも今迄あまり城の外に出なかったもので」
俺は思わず驚いた。
本当に箱入り娘として育てられたんだな…。
「ではちょっとした冒険ですね」
「そうですね…少し不安ですがこうやって領内の様子を見れてワクワクします」
「レイラ嬢ご安心を。私含め護衛の騎士もおりますので指一本触れさせません」
レイラ嬢を安心させようと騎士の物語にある有名なセリフを引用する。
「アイン様ではちと護衛としては頼りないですなぁ」
「爺。せっかく格好つけたのに茶化さないでくれよ」
そう言うと周りの騎士も笑っていた。
それを見てレイラ嬢もくすりと笑った。
ここ最近彼女は俺相手でも表情を出してくれるようになった。まだ時折余所余所しい部分もあるが、慣れていければと思う。
俺たちは程なくして、領内にいくつかある湖の辺りに辿り着いた。馬に水を飲ませたりと、ここで休息を取ることとなった。
レイラ嬢は湖を見てとても感動していた。
「遊んできても構いませんよ?」
俺がそう言うと、レイラ嬢は恥ずかしそうに顔を赤らめた。
「はしたないですよね。公爵家の令嬢とあろうものが…」
「大丈夫ですよ。ここには私たちしかいませんから」
猫耳獣人のメイドのミミが目を輝かせながら行きましょうお嬢様と声をかけていた。
悩んでいたレイラ嬢だが、ミミに引っ張られるように湖の方に向かっていった。
猫って水苦手じゃなかったけ…。
2人で足をバシャバシャさせる程度に遊ぶ姿はとてもキラキラしていた。
本当にキラキラしている。
あれ?
まじでキラキラしてるぞ?
俺は湖に近づき、砂を掬う。
じっと目を凝らすと砂の中に小さく煌めく物質を見つけた。
これ砂金じゃね?
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