第14話:訓練
害虫駆除を行ったあとは、その成果を大々的に宣伝した。もちろん火薬の件は伏せた状態で。実際に火薬の件を知っていたのは俺と家臣団の騎士達だけだ。伯爵家から借りていた兵もエーリッヒの魔法のおかげだと認識していた。
まぁ手段がどうであれ、結果として騎士数十人を含む100人あまりの残党は壊滅した。
被害といえば、火薬と馬車と馬数頭ぐらいなものだろう。馬も年老いた軍用に適さないものを選んだが、南無。いや、こっちの世界ではキリスト教に近い感じだしアーメンかな? 祈りの言葉なんて調べてなかったな。
それはさておき、この成果を大々的に宣伝したのは2つの目的がある。
まずは領民に治安を乱す輩を成敗したということで安心感を与えること。そして、やつらに合流しなかった残党や、盗賊などを牽制するためだ。次は自分の番になるかもしれないと恐怖することだろう。まぁほとんどは倒したし、これで治安は落ち着くだろう。
今回の件で、残党は大方は片付いたが、周辺の貴族家は警戒を強めるかもしれない。将来を見越して新兵訓練の見学に向かう。
訓練場は前世の運動場を思い起こさせる広さで、500人の兵士たちが隊列を作り、行進を行っている。
俺は、彼らを監督しているエーリッヒに近寄り声をかける。
「エーリッヒ。新兵の様子はどうだ?」
「だいぶ形になってきたと思います」
俺たちの視線の先では、500人の新兵たちがしっかりと隊列を維持し、行進していた。
エーリッヒが発する号令にもきちんと従っており、方向転換なども問題なくきちんと行えていた。
「訓練してみてどう思う?」
この言葉の意味は、この試み自体をどう思うかということを聞いている。
エーリッヒは顎に手をやり、兵士たちを真剣なまなざしで見つめる。そして熟考してからゆっくりと話し出す。
「……面白いですね。戦場で取れる選択肢が増えます……なんというか、もどかしさが晴れるようです」
もどかしさが晴れるか……。ゲームしている時のラグが無くなるような感覚だろうか?
「もし、成長し彼らのような兵が1万いたらどう思う?」
エーリッヒはこちらを振り向かず、じっと新兵の様子を見据える。
眼光の真剣味が増したように思える。
「……おそらく条件次第では2~3倍程度の敵なら撃破できましょう。北方のグスタフ戦士団にも劣らない戦力となりましょう」
エーリッヒの言うグスタフ戦士団というのは、王国の北方にある貴族たちの連合軍だ。彼らはかつて敗北し王国に組み入れられた歴史を持つ。
北方における貴族とは部族の長で寒さや貧しい地域のためか、かつては略奪し生計を立てていた。
そしてその強さは歴史にも記されており現在でもその強さは指標の一つとして挙げられる。
彼らは王国内では騎士として扱われるが、伝統的に彼らは自身を戦士と呼ぶ。そのため、騎士団ではなく戦士団と呼称するのだ。
「1万も用意するとなると……王位でも狙われますか?」
本で読んだ知識を思い起こしているとエーリッヒから質問が飛んできた。
彼の目はいつの間にかどこか見定めるようにこちらを見ている。
「ないない。例え話だよ……俺は王なんて器じゃない」
俺は苦笑いを浮かべて否定する。
俺はなぞの沈黙が占めるこの空間に居たたまれなくなり、新兵の様子を間近で見るといいその場を離れる。
「…あなたも私も、この様な乱世ではどのような未来を辿るかわからないものです」
エーリッヒは一つ深呼吸して公爵の下へと歩き出した。
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