第7話:農民兵
顔を出すだけで本来良かったので、戦後処理など手伝うこともなく帰路に就いた。戦に出る必要は本当になかったんだけどね……。
そんな俺たちの帰路は青々とした木々の間を這うような道を、ゆっくりと歩みを進める。
先ほどの戦場の雰囲気はとうに消え失せ、のどかな空気が漂う。のどかな雰囲気に似つかわしくない二人を除いて。
「いやはや年甲斐もなくはしゃいでしもうたわ」
ヘルベルトは照れ臭そうに笑っている。
「爺ちゃん。気を付けねーとまた腰やるぞ? ま、その時は俺が代わりに活躍してやるけどな!」
ヴェルナーの言葉を受けても、ヘルベルトは笑いながらヴェルナーの頭を掴んで撫でる。
「言うようになったではないか! 初めての戦で上手くいったからと言って、慢心するでないぞ。ま、儂の教え方が良かったのじゃな」
二人は、和気あいあいと会話していた。ちなみに鎧は返り血で真っ赤である。
彼らにとって戦に参加できたことが喜ばしいのはもちろん、戦功を立てたので少しばかりではあるがヴァイワール伯爵家より賞金が出ていた。
二人の会話を聞きながら、戦いを思い起こす。
「それにしても、戦というともっと柔軟というか…なんか正面からぶつかって削り合いってのは予想外だったな」
なんとなく。なんかこう戦術や陣形なんかがあるもんだと思っていた。確かに魔法による先制攻撃で動揺を与え、突き崩すのは道理だと思うのだが。
ヘルベルトは俺の言おうとしていることに心当たりがあるようで、髭を撫でながら少し上の空を眺めている。
「アイン様。兵士の大半は農民ですぞ。指揮する騎士の技量にもよるでしょうが、基本的には前進と撤退しかありませぬ」
あぁそっか。彼らは戦う術を本格的に学んだ兵士ではないのだ。とりあえず簡単な指示で形を保てればそれでいいということか。
だけどなぁ……。なんというか勿体ないように感じる。肉壁にしている農民の彼らも結局領内で農作物を作る国力の源だ。兵農分離ではないけど志願者集めて訓練させて兵隊作れないかな?
こういう時、相談するのに便利な相手は生きる知恵袋爺だ。
「爺。このような戦を続ければ国力は下がってしまう。農民たちから兵を集めて訓練を施してはダメだろうか?」
そう問いかけると爺は渋そうな顔をする。
「農民たちからですか……? う~む。儂は何とも思いませんが、他家や伯爵様の騎士は嫌がるでしょうな」
「なぜだ? 彼らとしても戦力が増えるならありがたいことだと思うが」
「出世の機会や取り分を奪い合うことになりますな」
? なんかこう頭の中で会話がかみ合ってない気がする。なぜだ。
農民出身の兵士たちが騎士と競い合うことか。見込みをある者はもちろん騎士に取り立てても良いが……あぁそっか。
「爺。別に農民兵を騎士として教育するつもりはないぞ。見込みがあるなら別だが、彼らには純粋に戦う術だけを訓練させようかと思っている」
この世界における騎士とは戦う職業であるが、傭兵なんかもこの世界にはいる。だが、農民の兵士や傭兵と騎士の根本的な違いは教養だ。
騎士は貴族の下で徴税官や補佐を行う。それ故、教養が求められ世襲制の騎士が多い理由となっている。
「なるほど……おもしろそうですな。しかし、なんとも金のかかりそうな話ですな!」
笑うヘルベルトに俺も苦笑いで返すしかできない。
うちの領内の経営状況では難しい話だしな。
「アイン様! その兵隊が出来たら俺に任せてくれ!訓練も俺がするから!」
ヴェルナーが興奮気味に話すが、彼が訓練するところを想像すると、とんでもないスパルタになりそうな気がする……。
ヴェルナーってハングリー精神が凄くて、訓練とかはものすごくストイックなんだよな。俺もヴェルナーと同じ訓練をしろと言われたら裸足で逃げだすレベルだ。
「機会があればな……?」
そう言って誤魔化したが、もしそうなればヘルベルトとエーリッヒに任せるとしようと俺は心に誓った。
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