第6話:戦とは
「あいつらなにやってんだ…」
俺は丘の上で呆然としていた。
戦が始まると聞いて、戦場を見晴らすことができる丘の上に来たのだが……。
ヘルベルトとヴェルナーは最前線にいた。文字通り、一番先頭だ。ヴェルナーは肩に剣を担いでおり、ヘルベルトに至っては準備体操している。
いや、その……準備体操の大切さは分かるけど場所に合わせた立ち振る舞いって求められるわけじゃん? まぁこれが長年戦場を生き抜いてきた猛者の風格なのか?
そんな緩い雰囲気を出すヘルベルトとは別に対峙する2つの軍は、ピリピリとした緊張感を発している。空が重く、戦場特有の空気を感じる。
「ヘルベルトのやつも最近は腰の調子も良くなかったみたいだからな。久々の戦で張り切っておるな」
そう言って声を掛けたのは父上だった。
俺は慌てて跪こうとするが、父上はそれを手で制した。
「構わんさ。今はヴァイワール伯爵家のものしかおらん」
父上は俺の横に並び立つと、興味深そうに戦場を見つめる。
「ヴェルナーもあの若さにしてはなかなか鍛えているようだ。騎士として主家のために戦功を稼ごうというのだ理解してやれ」
「…私のためというならば危ないことより、生きて仕えてほしいです」
父上は俺の言葉を聞いて、溜息を吐き諭すように語る。
「何かを得るためには何かを犠牲にせねばならない時は必ず来る。此度の戦いもシルリア地方を平定するためには必要な犠牲だ。……もうすぐ始まる。戦というものをしっかりと見ておけ」
父上がそう言うと程なくして、一筋の火が空を駆けていく。その火は彗星の様に尾を引きつつ、きれいな放物線を描く。
火は敵陣の中央に落ちると、大きな閃光と土埃が舞い上がる。
俺のいる場所にも閃光が届き、それから少し遅れてドォンと鈍い音が全身を突き抜ける。
光と土埃が落ち着き、改めて戦場を確認するが被害はそれほど出ておらず数十人程度であった。だが、あの激しい衝撃波と光によって敵陣は激しく動揺していた。
敵兵の一部には、
その好機を逃さまいと、こちらの軍が突撃していき敵陣をぐんぐんと食い破っていく。
「戦いとは結局のところ心の削り合いなのだ。混乱し、襲われ心が折れたら負ける。だが、一見負けそうな戦いでも流れが変わることがある」
そう言って父が指さしたのは、うちの軍の先鋒であった。
ヴェルナーとヘルベルトが勢いよく切り込んでいたが、一人の男によって停止させられている。
「あやつはバルティアの残党の騎士だ。中々に手を焼かされたが決着をつけねばなるまい」
父上はいつのまにか家臣の騎士が引き連れた馬に飛び乗る。
「たった一人でも戦の流れを動かすことがあるのをしっかりと見届けよ」
父上は2mほど進んで振り返る。
「先ほどの話だがな、それでも生きてほしいと欲張るならば彼らの為に軍を集め、装備を整え、策を練るのが彼らを強くし活かすことになる。欲張っていけよアイン」
「…しかと肝に命じます父上」
父上はこくりと頷くと何も言わず数人の騎士を伴って戦場に突撃していった。
父上とそれに付き従う騎士達は横から迂回し、敵陣を切り裂く。
敵の勇猛な騎士の元に辿り着くと、二人はにらみ合った。
ピリピリとした緊張が戦場全体を包み込んだ。
程なくして、二人は照らし合わせたかのように馬を走らせ、交差した。
互いに走り抜けたあと、敵の騎士がずるりと馬上から落ちた。
父上は剣を天高らかに掲げると地を揺るがすほどの歓声が沸き起こった。
あんだけ言っておいて個人の武勇で解決するのはずるいよ父上…でも、これが強者の戦い方か。俺は父上の言いつけ通り、弱者の戦い方を自覚しなければならない。
敵の優秀な騎士を討ち取ったことで戦争は終わり、彼らは降伏した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます