第53話

 ふと、あらためて空を見上げると、恋春の目は空に薄い、人型の輪郭を捉えた。

 輪郭はみるみる鮮明になり、テクスチャを張るように色と厚みを得て実体化。

駅のすぐ近くに、かつて死闘を繰り広げたあの漆黒の敵隊長機が佇んでいた。


「アサシン!?」


 識別コード・アサシン。

 それが、銀河帝国隊長機の呼称だ。

 周囲の人々が悲鳴を上げ、街中にサイレンが鳴り響いた。


 恋春の視界にARアラート表示が出て、避難所へ逃げるよう、視界に誘導矢印の映像がポップした。


 けれど、恋春はそれを非表示にして、駅の窓からアサシンを凝視した。

 アサシンの華奢なシルエットが地面を蹴り加速。

 敷石にわずかなヒビを入れる柔らかい跳躍で、一気に大通りへ着地した。


「いつのまに、どうやって……」


 空からアサシンが飛来してくることに帝都の防衛網が気づかなかったこと、そして透明人間が正体を現すようにして姿を見せた光景を思い出し、息を呑んだ。


「まさか、ステルス光学迷彩? でもそんな、あんなに大きな機体を隠すなんて……」


 ありえない、とは言い切れない。

 何せ、相手は太陽系を覗く、銀河系全てを支配する帝国だ。

 その科学力は、地球の比ではない。


「だめ、今からギュノスを発信させても間に合わない!」


 あのアサシンが本気で暴れた時の破壊規模を想像して、恋春は狼狽し、涙腺が熱くなった。


「お願い止まって! 止まって!」


 遥か遠くの巨影に向かって、届くはずもない声を張り上げる。

 周囲の人々はとっくに避難を始め、恋春は駅のホームで一人、孤独に叫び続けた。

 次の瞬間、まるで恋春の願いが届いたように、それは飛来した。


 アサシンが背中のブレードを引き抜き、上段に構えると、その刀身を銃弾が弾いた。


 アサシンが首を回したほうへ視線を向けると、そこには桜色のギュノスが、ライフルを構えて立っていた。


「恋夏ちゃん! あさとしくん!」


 恋春は安堵の歓声を上げた。


   ◆


「まさか訓練中に攻めてくるなんてな」

「うん、不幸中の幸いだよねぇ」


 俺は後部座席で恋夏のシンクロ率を高めながら、周囲とレーダーを警戒した。


「他に敵はいないみたいだな。みんなが出撃するまでの間、俺らで足止めするぞ!」

「足止め? その前に倒しちゃうよ! 恋春お姉ちゃんが、安心できるようにね!」


 恋夏はハンドルを握り直すと、ギュノスを走らせた。


 ライフルを背中のハードポイントに納め、代わりに愛用しているヒート高周波ブレードを引き抜く。


「いっくよぉおおおおお♪ でりゃぁあああああああああ!」


 恋夏は大きく剣を振りかぶりながら、アサシンに切りかかった。

 が、直前でアサシンの姿が半透明に、そして完全に焼失した。


「あれっ?」


 目標を失ったことで、恋夏の剣は躊躇し、振り下ろすのが一瞬遅れた。

 赤く発熱した剣身は空振り、歩道橋をかすめ、手すりを焼き切った。


「レーダーにもいない! どこ? どこ!?」


 直後、突然背後から衝撃が走り、コックピットが前に大きく傾いた。

 ステータス画面の背面が赤く点滅。

 俺自身も、痛みは無いも自分の背中を切り付けられたような感触だけは感じた。


「こいつ、自由に姿を消せるのか!?」

「こんのぉ!」


 恋夏は素早く反転。

 背後に立つ漆黒のアサシンとブレードのつばぜり合いを始めた。

 そこから二合、三合とブレード同士を打ち合わせ、にらみ合う。


 しかし、アサシンがバックステップで大きく距離を取ると、スクランブル交差点の上で姿を消した。


 ツシン という、浅い着地音。

 まるで質量まで消えてしまったように思えた。


「どうせまた背後でしょ!」


 恋夏は振り返りざまにブレードを横に振るった。

 だが、それは空振り、今度は真横から鋭い一撃がわき腹に抉り込んできた。


「きゃっ!」

「ぐぁっ!」


 悲鳴を上げながら、恋夏はなんとかバランスを立て直し、その場から離れた。

 逃げたわけではない。彼女は狙いは俺にもわかる。


「さぁ、追いかけてきなさい。移動すれば、絶対にその痕跡が――」


 恋夏の声は銃声にかき消され、ギュノスの足が被弾した。

 機体は足をもつれさせて転倒。

 視界カメラがコンクリートに埋まった。


「ちくしょ、下手に離れられないな……うわっ」


 俺が悪態をついた直後、今度は機体が大きく持ち上げられた。


 コンクリートから離れた視界カメラに、俺らを担ぎ上げる漆黒の機体が映る。


 アサシンはギュノスを放り投げると、空中の俺らに向けてサブマシンガンを放ってきた。


 空中で俺らはなすすべなく被弾。

 全身の装甲を削られていった。

 そして、ギュノスは駅に頭から突っ込んだ。


   ◆


 戦いの様子を、恋春は手に汗を握り、目に涙を溜めながら見守っていた。

 恋夏と朝俊のペアは強い。きっと自分よりも。


 なのに、ギュノスは防戦一方、いや、防戦すらできていない。

 妹が、なすがままにいたぶられていく様は、恋春の胸に深く突き刺さった。


「だめっ! お願い! もうやめて! 逃げて! 早く!」


 しかし、どれだけ彼女が涙を流そうと、声を嗄らさんばかりに悲鳴を上げても、想いは届かない。


 それどころか、ギュノスは宙に放り出され、マシンガンに弾幕に晒されボロ雑巾のようにズタズタにされていった。


「だめぇえええ! もう! これ以上わたしの妹をいじめないでぇえええええ!」


 頬を濡らす大粒の涙が足元に落ちた時、半壊したギュノスが視界に迫ってきた。


   ◆


 駅のホームに頭から突っ込んだギュノスは下半身の質量に引かれる形で上下が反転。


 右半身を駅のホームに埋める形で止まった。


 平衡感覚を失いそうになりながらも、俺らはハンドルを握りしめてなんとかシートから投げ出されずに耐えきった。


「あいつ無茶苦茶だな」

「でもどうしよう、視界にもレーダーにも映らないなんて」


 恋夏が弱音を吐くと、レーダーに味方機の反応が光った。

 どうやら、みんなが出撃したらしい。


「まずい。このまじゃ犠牲が増えるだけだ。急ぐぞ!」

「うん!」

「待って!」

 俺らがすぐにギュノスを起こそうとすると、聞きなれた悲鳴が駆け寄ってきた。

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●雑学 おっぱいは意外と小さい

 本作は爆乳キャラぞろいですが、皆さんに「デカ過ぎて好きになれない」と思われないよう言い訳タイム。

 ネットでは男の勘違いサイズ、なんて比較画像もありますが実話だと思います。

 漫画、アニメ、ゲームでは誇張表現、デフォルメ表現として、EカップFカップをボールをくっつけたようなバインボインの特盛バストに描き、胸ボタンを飛ばしたり主人公の腕を挟み込んだりしますが、そんなに大きくはないです。(極端なプラスサイズ体形の人を除く)

 スポーツ漫画で身長180センチのキャラが2メートルぐらいに描かれるのと同じです。

 二次元に慣れてしまうと実際のEカップFカップのグラビアモデルを見た時に「あれ?小さくね?Eカップって巨乳じゃないの?」と困惑します。

 二次元の巨乳キャラのおっぱいは現実だとそれこそHカップ以上が妥当でしょう。


 次回は、同じカップ数なのに見た目の大きさが全然違う人がいるけどどうして?

 をお送りします。


参考データ

ボア・ハンコック 111センチ Jカップ

ニコ・ロビン   100センチ Jカップ

ナミ        98センチ Jカップ

鞠川静香     108センチ Jカップ

二条秋      103センチ Kカップ

桂言葉      102センチ Kカップ

及川雫      105センチ Kカップ

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