第48話
恋春の顔がきょとんと瞬きをすると、恋夏がテンションを上げた。
「おぉ、とうとうやる気になってくれましたかなぁ♪ そうだよねぇ、パイロットになればぁ、コナツさんみたいなセクシー美少女と毎日狭い部屋であーんなことやこーんなことし放題だもんねぇ♪ いやぁ、男の子ですなぁ♪ えいえい♪」
怪しく目元をにまにまさせながら、恋夏が俺の脇腹をつついてくるので、俺は手を横に振った。
「そんなんじゃねぇよ。ただなんていうか……」
俺の口から恋春がパイロットをいやがっている、恋夏のために犠牲になっていた、なんて言えないので、俺は嘘にならない範囲ではっきり言った。
「昨日、恋春の裸見ちゃったお詫びの休暇だ。しばらくゆっくりしてくれ」
「わおっ♪」
「あぅっ!」
口に手をあてて嬉しそうに驚いてみせる恋夏。
その横で、恋春は両手をおっぱいと股間に当てて、前かがみに赤面した。
「え~、ずるーい。弟君、今日一緒にお姉ちゃんとお風呂入ろ、ね。お、ふ、ろぉ♪」
「むぅ、あさとしのえっちマン」
「アサトシ! バランスを取るためにお姉ちゃんの裸ももう一回見て!」
そしてみんながウザかった。
だけど、俺は見逃さなかった。
恋春の表情の変化を。
◆
次の俺の出番は意外に早く、三日後だった。
授業中にサイレンが鳴ると、俺の視界には銀さんからのAR招集アイコンが閃いた。
二頭身にデフォルメされた銀さんが、余った白衣の袖を振りながら、いそげいそげと謎のダンスを踊っている。
そうして俺と恋夏がギュノス格納庫へ向かい、コックピットへ乗り込んだ。
すると、胸部ハッチが閉まろうとする直前、目の前の連絡通路に向かって、誰かが駆け込んでくる慌てた足音と、息を切らす声が聞こえた。
「待って!」
俺と恋夏の目の前に現れたのは、思った通り、スーツ姿の恋春だった。
「恋春お姉ちゃん、どうしたの?」
不思議そうに首をかしげる恋夏に、恋春は叫んだ。
「ごめんね恋夏ちゃん! わたし、実はずっとパイロット辞めたかったの!」
「え……」
突然の告白に、恋夏は茫然とした。
けれど、彼女が何かを言う前に、恋春がまくし立てた。
「戦うのが怖くて、犠牲者の数を見るたびにわたしのせいな気がして、ずっとずっと苦しテク、でもみんながわたしたちに期待して、恋夏ちゃんの夢を奪いたくなくて、わたし、我慢していた」
思いつく限りの単語を次から次へと喋るだけのまとまりのない言葉は、だけど彼女の本心だと雄弁に伝わって来る。
恋春が一つ言葉を口にするたび、俺は達成感が溢れてきた。
「それで、あさとしくんがわたしの代わりに恋夏ちゃんと乗ってくれるなら、パイロットをやめられるんじゃないかって、でも、でもでも、この前ニュースでふたりが取材を受けているのを見た時……」
恋春の大きな目から、大粒の涙があふれた。
「さびしかったの……」
泣き顔で真摯にこちらと向き合い、恋春は熱い胸の内を吐露した。
「なんでわたしは恋夏ちゃんと一緒にいないんだろうって、なんで、恋夏ちゃんの隣にわたしじゃない人がいるんだろうって。わたしなんて、恋夏ちゃんにとっていらないお姉ちゃんなんじゃないかって思ったら、寂しくて、悲しくて、辛くって……」
パイロットスーツの腰元で、まるでスカートの裾を握りしめるようにぎゅっと拳を作ってから、恋春はそっとその手をときほぐした。
濡れた目は、いつの間にか恋夏を乗り越え、まっすぐ俺を見つめていた。
「あさとしくんの言う通りだったね。人は今ある幸せには気づかない。離れてみて、もっていた幸せに気づくって。その通りだったよ。わたしにとってギュノスは、大好きな恋夏ちゃんと一緒にできる大切な時間なんだって、わたし気づいたの」
涙にぬれる顔は頬を緩ませ、恋春は悲しみの涙をうれし泣きに変えた。
「わたし、嬉しかったんだ。双子なのに、恋夏ちゃんは昔から明るくて社交的。自分はいつもおまけみたいについていくだけ。周りからも似ていないって言われて傷ついていた。だけどパイロットになって辛いことも多かったけど、流石双子、流石姉妹って言われると嬉しかった。わたし、恋夏ちゃんの隣にいても辛くなかった」
そこまで言うと、恋春の目はまばたきひとつで強く、凛と輝いた。
「だから私はパイロットを続ける。誰かのためじゃない、恋夏ちゃんのためじゃない。私が恋夏ちゃんと一緒にいたいから!」
彼女は力強く、俺に手を伸ばしてきた。
「だからその席をわたしにゆずって! そこは、恋夏ちゃんのお姉ちゃんである、わたしだけの居場所だから!」
恋春の切なる願いに、俺は席を立った。
「その言葉を待っていたぜ、行ってこい、二人とも!」
「「うん!」」
恋春と恋夏、姉妹は同時に頷いた。
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漫画女神のカフェテラス174話が銭湯回でヒロインたちの全裸が出まくりです。
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