第46話

「まさか昨日の今日で乗ることになるとはな」

「だね。だけど安心して、操縦は全部コナツさんがするから、あさとしくんはぁ、でーんとうしろに座ってくれれば大丈夫だよぉ♪」


 間延びした明るく甘いほんわかボイスで、恋夏は俺の前の座席にまたがった。

 俺らを乗せたギュノスが格納庫から地上へリフトオフされる途中、俺は問いかけた。


「お前、妹が心配じゃないのか?」

「別にぃ? だってさっきまでは一緒にいたしぃ、きっと昨日、あさとしくんに裸を見られたのか恥ずかしくて乗れないんだよぉ」

「おいおい」


 どうやら、この妹は本当に姉の苦しみを知らないらしい。

 けれど、彼女は責められない。


 むしろ、恋春自身がバレないように、ひた隠しにしていたのだから。

 機能のテスト用コックピットではない、本物のコックピットの壁面が、不意に焼失した。


 いや、厳密には、外の映像が映し出されたのだ。

 眼下に広がる帝都の街並み。


 そびえるビル群。

 そして、中央道路を駆けまわりながら敵機と交戦する味方機たち。


「じゃああさとしくん、よろしくぅ♪」

「おう」


 俺は命属性の力で、最大限、恋夏と生命パターンを同調させた。

 すると、恋夏の握るハンドルが七色に光り輝いた。


「キタキター♪ シンクロ率49パーセント♪ うーん、力がみなぎってキタァー♪」


 彼女がハンドルを引き寄せ、やや前傾姿勢になると、視界が一瞬沈み込んでから急上昇。


 機体が大きくジャンプしたことを物語る。


 ――すごいな……。


 ギュノスが跳躍したことを、俺は視界だけでなく、体で感じた。

 俺の足は、自分の足とは別にギュノスの足を、自分の腕とは別にギュノスの腕の存在をうっすらと感じていた。


 ――これが、ギュノスとシンクロする感覚なのか。


 ギュノスはただの車や戦闘機とは違う。

 特別な兵器なのだと、肌で実感させられる。


 視界に入っていなくても、いま、ギュノスの手足がどういう動きをしているのか感じながら、戦闘は始まった。


「いっくよぉー♪」


 恋夏の、いや、ギュノスの両手が腰の拳銃を引き抜くと、コンクリート上を疾走しながら引き金を引きまくった。


 そのたび、砲門、と呼べる口径の拳銃が、電磁誘導された超音速弾を吐き出した。


 戦車の主砲にも負けない砲弾が、あり余る質量と運動エネルギーを武器に大気を滑空。


 敵機の腕や足に当たり、牽制。その隙を突いて、味方のギュノスが重たい一撃を加えていく。

 正確無比の、見事な援護射撃だ。


「わおぉ♪ 狙ったところに当たる当たるぅ♪ まるでぇ、自分の手で撃っているみたぁい♪」


 恋夏が敵機の間を通り抜けると、通常の敵機よりもやや重装甲の機体が迫ってきた。

 雰囲気から、雑兵ではないだろう。


「むんっ♪」


 恋夏は拳銃からヒート高周波ブレードに持ち替えると、腰だめに構えた。


 重装敵機がカノン砲を放つと、もう恋花は回避行動を取っていた。

流れるようなサイドステップで避けてから、大ぶりな横薙ぎの一撃を重装敵機に叩きこむ。


 青い装甲に、赤く熱した灼熱の高周波ブレードが食い込み、火花を噴き上げた。


「■■■■■■■■■■」


 鋼の軋みを唸り声代わりに、重装敵機は数歩引いた。

 近距離戦闘でカノン砲は足手まといと悟ったのだろう。


 重装敵機は未練なくカノン砲を捨てると、背中にクロスさせた二本の大剣を握りしめた。


 金属レールがこすれる金切り音を響かせながら引き抜いた大剣を構えるや否や、重装敵機は力強く踏み込んできた。


 アスファルトに蜘蛛の巣上のヒビを広げ、地面を陥没させながら互いのブレードが激突!

 衝撃でコックピットにまでズシンという震動が伝わってきた。


「ふんっ♪ フンッ♪ ほっ♪ はっ! やぁっ!」


 恋夏は上機嫌に灼熱の刀身を巧みに操り、重装敵機の二刀流と互角以上にわたり合っていた。


 手数は二刀流の重装敵機が上かと思ったが、そうでもないらしい。

 重たい大剣を片手に扱っているためか、重装敵機はわずかに初動が遅い気がする。


 一方で、両手で長めの柄を握る恋夏の刀身は機敏に切り返され、二刀流と無理なく渡り合っている。


 ――こいつ、凄いな。


 実のところを言うと、姉の苦しみも知らず能天気にパイロットをしている恋夏に対して、良くない感情がわずかながらあった。


 けれど、恋夏は射撃も剣術もそつなくこなし、人類の敵である銀河帝国、その重装敵機を押している。


 それも、怖じることなく果敢にだ。


「……」


 とある感情が胸に芽生えた刹那、俺は死角から迫る脅威に気が付いた。

 遥か右手に、こちらを狙う銃口が見えた。

 恋夏は目の前の重装敵機に集中している。


 今から声をかけても間に合わない。


 それが正しい選択かもわからず、俺は反射的に「かがめ」と叫ぼうとして、恋夏のブレードが右手から迫る砲弾を弾いた。


「え……?」


 それが意外だったのか、重装敵機の動きがわずかに鈍った。

 それを見越していたかのように、恋夏はすでに動いていた。

 砲弾から受けた反動を活かし、そのまま右回りに一回転。


 恋夏はギュノスの全質量と回転力、各部トルクの出力を合一させ、その全てをブレードに注ぎ込み、重装敵機の胴体をブッタ斬った。


 紅蓮の刀身が重装敵機の青い装甲を切断し、ウエストの半ばまで一息に到達。

 そこからはナイフがバターを切るようにして、刃は重装敵機を通り抜けた。


 他の重装敵機も、味方のギュノスたちが討伐。

 銀河帝国の部隊は全滅した。


「わぁい♪ 勝った勝ったぁ♪」

「恋夏、お前よく右からくるってわかったな」

「うん♪ なんかね、あさとしくんの気持ちがこう、びびっと来たんだよね。これがシンクロ率49パーセントかぁ♪ 早くこの感動を恋春お姉ちゃんにも教えてあげたいなぁ♪」

「……」


 手放しで勝利を喜ぶ恋夏を、俺は複雑な表情で見つめるしかなかった。

恋夏は強い。


 才能がある。体も、技術も、そして心も。

 このまま成長すれば、恋夏は間違いなく人類防衛の要となるだろう。


 ――甘かった。


 恋春がパイロットを辞めるということは、人類防衛の要を潰すことであると同義だ。同時に、これほど喜ぶ恋夏の夢を奪ってしまう。


 そんな残酷なこと、俺が恋春の立場ならできない。


 自分が被害の責任を感じたくないからなんて、とてもではないが言い出せないだろう。


 そして、俺はこの時、知らなかった。

 自分がいなくても活躍する妹の姿に、恋春がどう思うかを。


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月が導く異世界道中アニメ25話最終回でメデューサ二人のシーンが爆乳でエロいです。

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