第44話

まるで罪の告白のように、彼女は静かに、だけど深い感情のこもった声で話始めた。


「初学生の時の検査でパイロット適性があることがわかって、周りが勝手に盛り上がって、恋夏ちゃんも乗り気で、だけどシンクロできる自分もOKしないと恋夏ちゃんはパイロットになれないから……それで……」


 どうやら、恋春は妹のためにパイロットを始めたらしい。


「それでも最初は、そんなうまくいくわけないし、きっと井の中の蛙で長続きしないだろうって、ちょっとだけ恋夏ちゃんに付き合おうかなって。でも、恋夏ちゃんは戦うのがうまくて、どんどん成果を出して、それでいまさらやめたいなんて言えなくて……」


 やめたいと言い出せないうちに話がどんどん大ごとになっていく。

 引っ込み思案で口下手な子にありがちな不運に、俺は同情した。


「そっか、今まで辛かったんだな……その、戦うの怖いか?」

「……うん」


 理想と現実は違う。

 現実はコミックのようにはいかない。


 意気揚々と始めても、いざ目の前に殺意を持った相手が立ったり、ケガをして痛みを感じると、言いようのない恐怖に駆られて逃げ出してしまう人が普通だ。


 だけど、恋春は逃げられなかった。


「でもね、もっと怖いのが、わたしの責任になっちゃうことなの……」


 己の醜態を恥じるように、恋春は弱音を漏らし始めた。


「昔はテレビで被害者人数を聞いてもかわいそうで済んだ……けど、自分がパイロットになってから被害人数を聞いたら、なんだかわたしのミスで死なせちゃったような気がして、辛いんだ……」


 背中越し感じる濡れた声は、彼女の表情を鮮明に想像できるほどに辛そうで、俺は胸が締め付けられるようだった。


 同時に、彼女の在り方を尊いと感じた。

 街を救ったことを誇るのではなく、救えなかった人への罪悪感を覚える。


 なんて責任感の強い子だろうと、感心してしまう。

 彼女を救いたい、その一心で、俺は強めに提案した。


「じゃあ恋夏に言えばいいだろ? お前ら双子の姉妹だろ? 遠慮するなよ。恋夏だってお前がいやがることをやらせようとはしないんじゃないか?」

「双子だからだよ」


 実感のこもった声に、俺は口をつぐんだ。


「双子だからわかるの……恋夏ちゃんはパイロットを楽しんでいる、そしてわたしが本気で嫌がったらきっとやめちゃう……パイロットもつらいけど、わたしのせいで恋夏ちゃんのやりたいことを奪うのもつらいの……わたし、わがままだよね……」

「そっか、辛いな」

「……」


 彼女の境遇には同情の念を禁じ得ない。

 けれど、同時に俺はなんだか嬉しかった。


「恋春って、凄い強くて優しいんだな」

「え?」

「だってそうだろ?」


俺は彼女をはげますように、流ちょうに話した。


「100人を救ったことを誇らずに1人を救えなかったことが辛いと思える。救えなかった人を想い痛みに共感しちまう。そんでその辛さに耐えてでも妹の夢を叶えたい。それってお前がすごく優しくて強いからだろ?」

「わた、わたしはべつに……そんな……」


 恐れ多いとばかりに慌てて否定した声は、すぐしりすぼみに力を失っていく。


「あとお前に当てはまるかわからないけどさ、他人に言われていやいや始めたことが、のちのちになってから大切になることもあるらしいぞ……これ、姉さんの言葉な」


「東雲先生の?」


「おう。俺の姉ちゃん、才能あり過ぎてスカウトされたけど、弟君から離れたくないって嫌がったんだよ。だけど国の人から弟を物理的に守る手段が手に入るって言われていやいや初めて、だけどいざ訓練が始まったら飛び級でプロになって、会うたびメールのたびすごい楽しそうでさ。戦うの好きじゃないけどどんどん自分が成長して、周囲から褒められることにやりがいを感じられたらしいぞ。恋春はそういう経験ないのか?」


「それは……」


 言い淀む恋春。

 きっと、今まで感謝されたり表彰されたりしたことを思い出しているのだろう。


 そして、悩んでいるんだと思う。

 俺は彼女の背中を押すつもりで、その場から離れ際に口を開いた。


「もちろん、どうしても辛かったら離れてみるのもいい。人間、今、手にしている幸せには気づかないらしいからな。パイロット辞めてから、辞めなきゃよかったって思うかもしれないぜ、これも姉さんの言葉な。じゃ」


 その言葉を置き土産に俺が一歩離れると、恋春が声を上げた。


「待ってあさとしくん」


 振り返ると、床に座ったままの恋春が、こちらを向いていた。

 

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 床に手を着いた前傾姿勢の横座り。


 おかげで、彼女の一番デリケートな部分は隠れているものの、大玉メロンをふたつ、横に並べたような爆乳が、桜色の頂点まであますところなくまろび出てしまっていた。


 でかい。

 大きい。

 すごい。


 日葵姉や萌花とそんしょくのない爆乳が、ほどよい大きさの淡い桜色を強調しながら、俺と向き合っていた。


 けれど、彼女はそのことに気づかず、少し照れたような表情で嬉しそうな声を滲ませた。


「会ったばかりなのに重たい話をしてごめんね。だけど、元気づけてくれて、ありがとう。わたし、もうちょっとだけがんばって……あさとしくん? どうかし……ッ!?」


 俺の尋常ではない視線に違和感を覚えたであろう恋春は、つまびらかになった自身のおっぱいを見下ろして固まった。


「ぁわ、ぁわ、ぁわ……」


 限界まで見開かれた目を振るわせて、頬を中心に耳や首筋、そして鎖骨の辺りまで赤く染まっていく。


 くちびるをぷるぷると、そして体をガクガクと震わせて、とうとう抜群の乳量を誇る特盛バストまでぶるんぶるんと揺れ始めた。


 そして。


「いっやぁああああああああああああああああん!!!」


 恋春の悲鳴と同時に、俺は鼻血を噴いた。


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俺のお嫁さん変態かもしれない 漫画18話にヒロインのお風呂全裸シーンがあります。

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